歪んだ月が愛しくて1
「でも好きな奴はいんでしょう?」
陽嗣先輩の何気ない言葉が生徒会室に息苦しい静けさを齎しす。
「……………は?」
この人はいつも唐突だ。
しかも触れられたくないところに直球だから返答に困る。
「だから好きな奴だよ。いんじゃねぇの?」
唐突過ぎて付いていけない。
てか何でガールズトークみたいになってんだよ。お前は女子高生か?頼稀のことはもういいのかよ?
「ん?」
「………」
本当のことを言うべきか。それとも白を切り通すべきか。
まあ、別に本当のことを言ったところであの人に辿り着くはずないから下手に隠したって仕方ないんだけど、ただ声を大にして言えるほど俺の心臓は丈夫じゃないからね。ここは後者一択。よし、これでいこう。
「あ、いるんだ」
その瞬間、ピシッと空気が凍った。
「だ、誰もそんなこと言ってないじゃないですか…」
「本当かなぁ〜?」
「沈黙は肯定を意味しますからね」
「く、九澄先輩までっ!」
「じゃありっちゃんのファーストキスっていつなの?」
「なっ!?」
「もう済ませた?何歳の時?まさかまだってことはねぇよな?」
「……何でそんなにテンション高いんですか?」
「興味あるから!」
「あっそ…」
クソ、さっきの仕返しかよ。
安易に踏み込まなきゃ良かったな。失敗した。
「てかこの2人はどうしたんですか?何か黒いオーラが見えるんですけど」
そう言いながら会長と未空を指差した。
あ、人を指差しちゃいけないんだっけ。
「ああ、それのことは気にしなさんな」
「ただの醜い嫉妬ですからね」
「嫉妬?」
何に?
「立夏くん、話を逸らしてはいけませんよ」
「そうそう。ここまで来てだんまりはなしだぜ。話してくれるまで逃がさねぇよ」
「ゔっ…」
どうやら是が非でも言わせたいらしい。
そもそも他人のそんな話を聞いて何が楽しいのか分からない。
こっちは言いたくないことも思い出したくないこともあると言うのに。
「さあ、りっちゃん観念しな」
「是非教えて下さい」
(悪魔共め…)
はぁ…、と溜息を吐く。
もうどうにでもなれと観念してゆっくりと口を動かす。
「………多分、10歳の時に」
「あ?」
「は?」
すると間髪入れずに会長と未空が言葉を被せて来た。
「え、な、何…?」
そんな会長と未空から少しずつ距離を取ろうとソファーから立ち上がると、2人はそれを許さんばかりに俺の腕を片方ずつ掴んで離さない。
「10歳だ?」
「……誰?リカの初めてを奪った奴はどこのどいつ?」
地を這うような低い声。
そのせいか先程よりも室内が肌寒く感じた。
「……えっと、もしかして怒ってる?」
「怒ってねぇ」
「怒ってないよ!」
メッチャ怒ってんじゃん!
どこをどう見たら怒ってないって言うんだよ!
「ぎゃはははっ!見ろよ九澄!アイツ等のあのリアクション!」
「ふふっ、予想通りの反応ですね」
「やべぇ!腹筋痛ぇ!」
俺は視線が突き刺さって痛いけどね!