歪んだ月が愛しくて1
ビロードのように美しい夜の世界にひっそりと佇む、冷たい月。
美しい棘を纏った悪の華のような彼に焦がれない者はいない。少なくともこの場には。
そう、彼は“特別な人間”なのだ。
誰も触れられない。
決して手の届かない存在。
特別な人間には特別な人間しか触れることは許されない。
そんな特別な人間になりたい者は数知れず、後を絶たない。
しかしその特別な人間に認められた者達がいた。
「テメーに話すことは何もねぇよ、―――公平」
「……ヤエちゃんのイケズ」
彼等は冷たい月の恩恵を受けていた。
彼等を形容する言葉は数知れず。
“白羊の異端児”から“忠犬ハチ公”とまで数多くの伝説を持つ彼等の存在は、この街の人間であれば知らない者はいないほど有名だった。
中でも区内に留まらず多くの人間に認知されている呼び名があった。
それが―――“白夜叉の側近”だった。