歪んだ月が愛しくて1



「―――それでは、私はこれで失礼致します」



栗田さんの声と扉が閉まる音で我に返る。
気付けば僕は自室まで戻って来ていた。
部屋に誰もいないのをいいことに僕はベッドに大の字で寝転がった。



(ああ…)



心底失望した。

いや、今更失望するほど初めから好感度は高くなかったか。



『お前に必要な知識や教養、そして“次期後継者”と言う肩書きは何れお前自身の糧となり同時にエルザを守ることに繋がるだろう』



吐き気がする。

あれが僕の父親だと思うと余計に。



……何も分かっていない。

義兄のことも、僕のことも。



親に愛されたくて必死で努力する子供に見抜きもせず簡単に切り捨て、愛する女のためなら自分の子供すら平気で利用するその神経に、僕は失望と軽蔑、そして同時に経験したことのない激しい怒りを覚えた。



所詮父にとって僕達異母兄弟は道具でしかない。

自分の地位を確立するための、そして好きな女を手元に繋ぎ止めて置くための駒に過ぎなかった。





自分が母を釣るための餌だと言うことは理解していた。

母を大切にしてくれるならそれでも構わないと思っていた。



でも甘かった。

どうやら僕はあの男への認識を見誤っていたようだ。



「あの色ボケジジイ…」



……やめた。

母の手前いい子を演じてやろうと思ったが、もうどうでもいい。



誰が大人しく餌になってやるか。

次期後継者の椅子には全く興味ないが、僕を指名したからには好きなようにやらせてもらう。



決して奴の思い通りにはさせない。

他人に引かれたレールの上を歩くなんて死んでも嫌なんでね。



「まずは、あのオニーサマをどうにかしないとな」



精々優越感に浸っていたらいい。

透かした顔をしていられるのも今のうちだ。



あの男が(子供)を上手に利用して欲しいものを手にすると言うのなら、僕はその立場を利用しご自慢の玉座とやらを手に入れてみせる。





―――最も残酷な形でね。


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