歪んだ月が愛しくて1



「どうする?」



文月さんは人を試すような口調でニヤリと挑発的な笑みを浮かべながら俺の言葉を待っていた。



「……どうせ俺に拒否権なんてないんだろう」

「よく分かってるな」



余裕の笑み。

まあ、そう都合良く文月さんの思い通りになってやるつもりはないが。



「但し、条件がある」

「条件?」



そう言うと文月さんは義母とよく似た切れ長の目をスッと細めた。



「アンタの高校には行く」



仕方なくだが。



「でも俺とアンタの関係は一切口外するな」



鏡ノ院家の親族。

文月さんの甥。



そんなレッテル、死んでも御免だ。



「それが進学する条件だ」

「……いいだろう」



それにこの条件で利があるのは俺だけではないはずだ。
文月さんだって一生徒と関係があると思われるのは色々な面で困るはずだし、お世辞にも優等生とは言えない俺が鏡ノ院の関係者だと思われるのも迷惑な話だろう。



「入学の手続きはこちらで済ませておく。お前の方は…、チサに心配掛けなければそれでいい」



後は文月さんの悪い病気が出ないことを祈るだけだが…。



「それとお前が聖楓に行くことはカナには言うなよ」

「何で?」

「アイツは既に南城への入学が決まっている。それに聖楓は全寮制の男子校だ。アイツがそう易々とお前を手放すとは思えねぇからな」

「何それ?アンタが思ってるほどカナは俺のこと好きじゃねぇよ」



寧ろその逆。

文月さんだって知ってるくせに。



「ま、今のお前ならそう言うわな」

「は?」



今の俺なら?



「いや、こっちの話だ」



文月さんは片手で頭を押さえながら呆れた顔を見せた。
言い返してやりたい気持ちを抑えてテーブルの上に出されたティーカップの中身を一気に飲み干す。
時間が経ってしまったせいで温くなった紅茶は味気なかった。



「兎に角、アイツには絶対に話すなよ。面倒なことになるから」

「面倒?」

「アイツが知った日には…、乗り込んで来るだろうからな」

「何でだよ」

「何でもだ。ま、お前がそう簡単に食われるとは思えねぇが一応用心しとけよ」



は?

くう?



「……俺、食っても美味くないんだけど」

「はぁ、このバカ…」


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