歪んだ月が愛しくて1
「どう言う意味?」
「お前が興味なくてもあっちは違うってこと」
「………」
紀田先生の言葉を無視して無言で手を差し出すと、そんな俺の行動に紀田先生が不思議そうに首を傾げた。
「……頂戴」
「何を?」
「それ」
紀田先生の口元を指差して催促する。
「煙草」
「……は?お前吸うの?」
何その意外って顔。
今時中坊だって煙草くらい吸うのに。
「悪い?」
教師相手に開き直って下から紀田先生を睨み付けると。
「わ、悪くねぇから!その顔はやめろ!」
「は?」
顔?
「ほ、ほらっ、残り全部やるからこれで我慢しろよ」
「………」
何か釈然としないがとりあえず煙草をゲットした俺は中身を確認する。
「これだけ?」
煙草は全部で5本。
これで我慢しろと?
「未成年が何言ってやがる」
仕方ない。
今日のところはこれで我慢するか。
火の点いていない煙草を口に銜えたまま紀田先生の前に立つ。
「……何?」
「火」
それだけ伝えて軽く背伸びする。
口に銜えたままの煙草を紀田先生の煙草に当てて火を奪う。
「っ、お前!どこでそう言うの覚えて来んだよ!」
喚く紀田先生を無視して一度肺に入れた煙をゆっくりと吐き出す。
久しぶりの煙草は特に美味しくも不味くもなかった。
あの時止めてなかったら少しは美味しく感じたのかな。
「何?」
「なにって…」
じーっと、紀田先生の視線を感じて負けじと見つめ返す。
まるで睨めっこ状態だ。
「な、何でもねぇよ…」
俺の視線に耐え切れずフイッと顔を背ける、紀田先生。
睨めっこは俺の勝ちのようだ。
「……文月は知ってんのかよ?」
「これのこと?」
口に銜えていた煙草を見せつけるように突き出すと紀田先生は首を縦に振って肯定した。
「知ってるよ。てかアイツが煩いから禁煙してたの」
「だろうな」
「だろうなって?」
「文月もああ見えて聖職者だからな。未成年の喫煙には反対なんだろうよ」
「……何が聖職者だ」
そんなんじゃない。
ただ文月さんは気に入らなかっただけだ。
自分の駒が思い通りに動かないことが。