本当の愛を知るまでは
気になりつつも、花純は千鶴と店舗に移動しようと駅に向かった。
電車に乗ると吊り革に掴まり、何気なく視線を上げる。
その途端、花純は凍りついたように動けなくなった。

「花純? どうかし……」

花純の視線を追って中吊り広告に目をやった千鶴も、同じように目を見開く。

「な、なにこれ。どういうこと?」

それはセンセーショナルな見出しが並ぶ週刊誌の広告だった。
派手で目を引くデザインの中、『クロスリンクワールド若きイケメン社長』の文字が躍っている。
そしてそこに続く文言は……

『インサイダー取引疑惑!』

花純の身体がカタカタと震え出した。

「花純! 一体どういうことなの?」
「……分からない。どうしてこんな……」
「落ち着いて、こんなの嘘に決まってる。上条さんから何か聞いてない?」
「何も……」

千鶴はしばし考えを巡らせてから花純の手を引いて、次の駅で電車を降りる。

「花純、一旦オフィスに戻るわよ」
「え? でも、仕事が……」
「花純を送り届けたら私が一人で店舗回りするから」
「そんな、千鶴ちゃん一人でなんて……」
「別にどうってことないわ。それより花純は一刻も早く上条さんのところに行かなきゃ。ね?」

花純はじっとうつむいてから顔を上げた。

「うん、そうする。ありがとう、千鶴ちゃん」
「よし、急ぐわよ」

二人で電車を乗り直してオフィスに戻ると、先程と同じように大勢の人に取り囲まれる。
どうやら週刊誌の記者やマスコミ関係者らしかった。
なんとかかき分けて自動ドアを入り、セキュリティーゲートを通過する。

「じゃあ花純、行ってらっしゃい。何かあったらすぐ知らせるのよ? 私に出来ることは何でもするから」
「うん、分かった。ありがとう! 千鶴ちゃん」

千鶴に見送られて、花純は高層階エレベーターに乗り込んだ。
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