本当の愛を知るまでは
「おはようございます!わあ、なんだか新鮮ですね」
明るい声で現れたのは、花純の同期の杉崎千鶴だった。
その後ろに、同じく同期の原もいる。
「おはよう。ちょうど今、森川さんにお願いしたところなんだけど。杉崎さんも原くんも、あとでデパートに手土産買いに行ってくれるかな? 挨拶回りするから、お菓子の詰め合わせをざっと30個ほど」
部長の言葉に、原が笑顔で頷いた。
「新オフィスでの最初の仕事がお使いとは。これがほんとの、はじめてのおつかい」
「アホ! もう、原の寒いギャグセンスは前のオフィスに置いてきてほしかったわ。ねえ? 花純」
千鶴に言われて、花純は苦笑いを浮かべる。
すると原がニヤリと不敵な笑みを見せた。
「千鶴、知ってるか? 花純って意外と俺のギャグ好きなんだぜ?」
「なにうぬぼれてんのよ。花純は哀れに思って、聞き流してあげてるだけよ」
「違うね。いつも、ふふって笑ってるもん。な? 花純」
花純は、んー?と言葉を濁しつつ笑顔で視線をそらす。
「ほらね。バカな弟を笑って許す姉って感じ」
「千鶴、バカとはなんだ、バカとは」
「あはは! なんで自分で2回もバカバカ言ってんの?」
止まらない千鶴と原のやり取りに、部長がやれやれとため息をつく。
「新しいオフィスで心機一転かと思いきや、相変わらずだな、君たちは。ほら、仕事仕事」
はーい、とようやく千鶴と原はデスクに向かった。
10時になると3人でオフィスを出て、歩いてすぐのデパートに向かう。
「大体さ、千鶴はいっつも俺に寒いギャグだって言うけど、ギャグって言葉、今どき誰も使わないからな」
「えっ、ちょっと。まださっきの会話続いてたの?」
「当たり前だ。決着つくまでやるぞ」
「暇ねー。部長じゃないけど、仕事しなよ?」
いつもの二人の会話を、花純は笑顔で聞きながら歩く。
同期3人組の雰囲気は何よりも心地良かった。
デパートに着くと、地下の洋菓子コーナーに向かう。
「焼き菓子の詰め合わせでいいかな? うーんと、これとかどう?」
ショーケースを指差す花純の横で、原もかがんで覗き込む。
「そうだな。これでいいんじゃないか? 花純、好きそうだな。パッケージも可愛らしくて」
「うん、ここのお菓子好きなの。美味しいんだよ」
「へえ、じゃあ決まりな。これを20箱と、あとの10箱は別の店でおかきとかあられの詰め合わせにするか」
「そうだね、男性や年配の方が多い会社にはそれがいいと思う」
原が早速店員に注文し、支払いを済ませた。
「わっ、すごい量だね。半分持つよ」
「サンキュー。それから、これは花純に」
小さな手提げ袋を渡されて、花純は、え?と首をひねる。
「なあに?」
「ここのお菓子、好きなんだろ? だからこれは、花純の分」
「えっ!だめだよ、原くん。経費でこんなことしたら」
「バレたか。って、うそうそ。ちゃんと別会計で俺の自腹だから、安心しろ」
「いいの? ありがとう! じゃあ、あとで3人で分けよう。ありがとね、原くん」
「どういたしまして」
すると黙って聞いていた千鶴が割って入る。
「ねえ、なんか花純と私で待遇違わない?」
「当たり前だ。花純は千鶴とは違って、オヤジみたいなノリで返してこないからな」
「ちょっと! 誰がオヤジなのよ?」
「ほら、オヤっさん。好きなせんべい選びなよ。このザラメ醤油は?」
「おー、いいな。甘じょっぱくて何枚でもいけらあ……って違うから」
花純は堪えきれずに、あはは!と笑う。
「千鶴ちゃんも原くんも、絶好調だね。新しいオフィスでちょっとドキドキしてたんだけど、すっかり安心しちゃった」
「そうなの? 私は逆に『いい出会いがあるかもー?』なんて期待してたのが、原のせいでガラガラと崩れ落ちたわ。見てよ、今日の私のファッション! アシンメトリーのスカートで気合い入ってるでしょ? なのにせんべい選ぶオヤジ呼ばわりよ」
「ふふっ、千鶴ちゃんの今日の服、すごく大人っぽくて素敵! ほら、あそこの上品なお店で吹き寄せ選ぼうよ」
「そうね、気分はいいとこのお嬢様で」
3人で賑やかに買い物を終えると、たくさんの紙袋を手にオフィスに戻った。
明るい声で現れたのは、花純の同期の杉崎千鶴だった。
その後ろに、同じく同期の原もいる。
「おはよう。ちょうど今、森川さんにお願いしたところなんだけど。杉崎さんも原くんも、あとでデパートに手土産買いに行ってくれるかな? 挨拶回りするから、お菓子の詰め合わせをざっと30個ほど」
部長の言葉に、原が笑顔で頷いた。
「新オフィスでの最初の仕事がお使いとは。これがほんとの、はじめてのおつかい」
「アホ! もう、原の寒いギャグセンスは前のオフィスに置いてきてほしかったわ。ねえ? 花純」
千鶴に言われて、花純は苦笑いを浮かべる。
すると原がニヤリと不敵な笑みを見せた。
「千鶴、知ってるか? 花純って意外と俺のギャグ好きなんだぜ?」
「なにうぬぼれてんのよ。花純は哀れに思って、聞き流してあげてるだけよ」
「違うね。いつも、ふふって笑ってるもん。な? 花純」
花純は、んー?と言葉を濁しつつ笑顔で視線をそらす。
「ほらね。バカな弟を笑って許す姉って感じ」
「千鶴、バカとはなんだ、バカとは」
「あはは! なんで自分で2回もバカバカ言ってんの?」
止まらない千鶴と原のやり取りに、部長がやれやれとため息をつく。
「新しいオフィスで心機一転かと思いきや、相変わらずだな、君たちは。ほら、仕事仕事」
はーい、とようやく千鶴と原はデスクに向かった。
10時になると3人でオフィスを出て、歩いてすぐのデパートに向かう。
「大体さ、千鶴はいっつも俺に寒いギャグだって言うけど、ギャグって言葉、今どき誰も使わないからな」
「えっ、ちょっと。まださっきの会話続いてたの?」
「当たり前だ。決着つくまでやるぞ」
「暇ねー。部長じゃないけど、仕事しなよ?」
いつもの二人の会話を、花純は笑顔で聞きながら歩く。
同期3人組の雰囲気は何よりも心地良かった。
デパートに着くと、地下の洋菓子コーナーに向かう。
「焼き菓子の詰め合わせでいいかな? うーんと、これとかどう?」
ショーケースを指差す花純の横で、原もかがんで覗き込む。
「そうだな。これでいいんじゃないか? 花純、好きそうだな。パッケージも可愛らしくて」
「うん、ここのお菓子好きなの。美味しいんだよ」
「へえ、じゃあ決まりな。これを20箱と、あとの10箱は別の店でおかきとかあられの詰め合わせにするか」
「そうだね、男性や年配の方が多い会社にはそれがいいと思う」
原が早速店員に注文し、支払いを済ませた。
「わっ、すごい量だね。半分持つよ」
「サンキュー。それから、これは花純に」
小さな手提げ袋を渡されて、花純は、え?と首をひねる。
「なあに?」
「ここのお菓子、好きなんだろ? だからこれは、花純の分」
「えっ!だめだよ、原くん。経費でこんなことしたら」
「バレたか。って、うそうそ。ちゃんと別会計で俺の自腹だから、安心しろ」
「いいの? ありがとう! じゃあ、あとで3人で分けよう。ありがとね、原くん」
「どういたしまして」
すると黙って聞いていた千鶴が割って入る。
「ねえ、なんか花純と私で待遇違わない?」
「当たり前だ。花純は千鶴とは違って、オヤジみたいなノリで返してこないからな」
「ちょっと! 誰がオヤジなのよ?」
「ほら、オヤっさん。好きなせんべい選びなよ。このザラメ醤油は?」
「おー、いいな。甘じょっぱくて何枚でもいけらあ……って違うから」
花純は堪えきれずに、あはは!と笑う。
「千鶴ちゃんも原くんも、絶好調だね。新しいオフィスでちょっとドキドキしてたんだけど、すっかり安心しちゃった」
「そうなの? 私は逆に『いい出会いがあるかもー?』なんて期待してたのが、原のせいでガラガラと崩れ落ちたわ。見てよ、今日の私のファッション! アシンメトリーのスカートで気合い入ってるでしょ? なのにせんべい選ぶオヤジ呼ばわりよ」
「ふふっ、千鶴ちゃんの今日の服、すごく大人っぽくて素敵! ほら、あそこの上品なお店で吹き寄せ選ぼうよ」
「そうね、気分はいいとこのお嬢様で」
3人で賑やかに買い物を終えると、たくさんの紙袋を手にオフィスに戻った。