Drive Someone Nuts
「誰だあん、た」


 野太いが怯えたような声色で尋ねた。その時ポケットからかちゃりと道路に転がったのは小さなバタフライナイフだ。俺は自分の判断が正しいことが分かってそのナイフを足で蹴とばした。そして無我夢中に殴った。男は助けてくれと泣いていたが、暫く止められなかった。こんな男にくれてやるくらいなら、俺が、俺の手で。母親と同じ性質をもつあの子をかわいそうだと思う。不幸の匂いがクズを誘う、コイツも俺も。


 あの子が高校を卒業して、大学生になってようやく接触した。カフェでは常連として監視して、マッチングアプリでは偶然を装った。初めてしっかり話して驚いたのは思っている以上に明るく爽やかな子だった。少し緊張していたけれど、途中から何故か居心地良さそうに柔らかに笑う。どこか陰のあるところを見たかったけれど、あの子の笑い声は俺をひだまりに連れていくような温かさがあって眩しかった。俺は笑っていたけれどずっと居心地が悪かった。あの子と会う日は必ずあの女に欲望を向け抱いた。あのじめっとした暗さが丁度よかった。
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