嘘でいいから、 抱きしめて
「……」
「あ、食べます。食べる食べる。大人しくするし、ちゃんと食べるから。そんな虫けらを見るような目で見ないで」
─ここ最近、毎回、こうである。
マジで軽蔑するような目で見られたら、流石に食べなきゃマズイなって思う。何故なら、全部、報告がいくからだ。
アキとか夏鶴とか、冬璃とか。─あと、ミヤにも。
それは本当に勘弁だ。
後で書くことになる、報告書はなるべく少なめが良い。
「いただきます……」
別に面会禁止にもなっていないけど、見舞いにすらこない非情な仲間達は今頃、何の任務をしてるだろうか。
もっとも、僕が怪我で入院するのは珍しいことでもないし、見舞いなんて来て欲しくないタイプだから、彼らは僕のことをよく分かってるって、感動すべきかな。
そういや、ミヤからお小言の手紙が届いて─……。
「美味しい」
……ひと口食べた瞬間、思わず、口にした言葉。
いつぶりか忘れたけど、本心でこの言葉が零れたのは久々で、目が覚めるような感覚に、目を瞬かせるしかない。
「そうか」
先生はハルの反応を見ると、少し微笑み。
「それは良かった」
フォークを置くなんて勿体ない。
彼のおかげで強くなっていたらしい胃は、僕の気持ちに反して、普通に空っぽだったらしい。
普段ならこういうガッツリしたものを食べると、必ずと言ってもいいくらい、戻していた。
だから、自然とご飯を食べなくなり、サプリや水ばかりの生活だったのに……。
「─ねぇ」
「なんだ?」
「僕のご飯って、君が作ってるの?」
「そうだが」
「なんで?」
強制入院を始めてから、ずっと疑問だったことを投げ掛けてみる。彼の行動には、不思議がいっぱい。
「入院食なら、ちゃんと作ってくれる職員さんがいるはずでしょ。大体、君がずっとここにいる理由もなければ、僕の管理をする理由もないはず。あ、もしかして、ドクターに特別手当でも貰ってる?それなら分からないでもないけど……組織の皆に許可を取ったのが自分だからとか、そんな小さなことを気にしてるなら、本当に忘れていいから。全然、本来の仕事である廃墟調査に向かってくれていいから。こんな所で君みたいな人の貴重な時間が失われるなんて、本来、あってはならないことだよ。僕の怪我はいつもの事だし、何より、術後経過も悪くないんだろう?なら、そろそろ退院してもいいと思うんだよ。あと─…痛っ!」
「喧しい」
ペラペラといつも通り喋り倒していると、顔にあたる固いもの。見ると、彼が本を手にため息をついている。