だから、あたしは
1 同居

  今日から、男の子としての生活が始まる。何もかもが初めてのことばかり。

「いらっしゃーい。いずみ君、はじめまして……。荷物は、たったこれだけなの?」

 ニコヤカに出迎えてくれたのは、専業主婦の騎士澄子さん。澄子さんの趣味なのか、部屋の家具は、中世のフランスっぽい雰囲気になっている。

 ティッシュケースもクッションもレース編みだし、その服装もゴージャスで、お金持ちのマダムそのものって感じ。

「いずみ君、ここを自分の家だと思って寛いでちょうだいね。洗濯物はどうする? おばさんが洗ってもいいのなら、みんなの服と一緒に全部洗うわよ」

 あたしは決して潔癖症ではないけれど、他所の家族の洗濯物と一緒に下着を洗うのは嫌だわ。

「すみません。自分のものは自分で洗います」

 澄子さんの夫は外科医で、二年前から高知県の大学病院に赴任している。母と息子が二階建ての瀟洒な洋館に暮らしており、澄子さんの義父にあたる理事長さんは渡り廊下の向こうにある平屋で過ごしている。でも、先月から理事長さんは腰の手術の為に入院しているので、ここにはいない。

 騎士剣。(きしつるぎ)それが、ここの息子の名前なんだけど、漫画の主人公みたいで凄いわ。

「二階のレナの部屋を使えばいいと思ったけれど、レナの部屋のものを勝手に触るとレナが怒っちゃうのよ。離れの空き部屋でいいかしら。歴代の留学生はみんなそこにいたの」

 長女のレナは社会人で、もう結婚もしているけれど、娘時代の荷物は、まだ実家に置いたままなのね。

 洋館の間取りは4LDK。そこにプラスして離れの和室が二部屋という構成になっている。母屋と離れは渡り廊下で繋がっていて、廊下からは綺麗な和風の庭園がよく見える。

 宅地の背後には竹林があり、その後ろ側には小高い山が迫っていて周囲は田畑と民家。つまり、ここは、かなりの田舎。

 これまでとはガラッと違う場所なので、きっと、困る事もあるだろうけど、その都度、対処すればいいと覚悟を決めていた。

あたしの荷物はトランク一つだけ。

 離れの一室に置いて母屋に戻ると、澄子さんがテーブルの上にキティちゃんの表紙のキュートなアルバムを広げながらツラツラと話し始めたのだった。

「この人が息子の曽祖父に当たる騎士剣輔さんなの。村の地主だった方なのよ。息子は剣輔さんの若い頃に顔が似ているでしょう。昔の人なのに背が高くて足がスラッとしているの」

「へーえ、カッコいいですね」

 帝国陸軍の軍服姿だった。腰に銀色のサーベルを挿している。

「こっちは、あたしの娘のレナ。剣より、十二才年上なの。お転婆でね、金太郎のような子だったの。近所の大型犬相手に本気の喧嘩をして脚に噛み付くような乱暴者だったの」

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