だから、あたしは
 写真を見てなるほどと納得した。服装も簡素でモンゴル力士の幼少期なのかと言いたくなるような豪胆な面構えなのだ。

「この人は、今、どこにいるの?」

「隣の市で獣医師として開業しているわ」

 澄子さんは 他愛のないことをよく喋る御婦人だ。悪い人じゃないけど、どこか子供っぽい。こういうタイプの女性は苦手だけども、ここに来たからには仲良くやっていくしかない。

               ☆

 あたしは山田いずみ。十六歳。ここは、あたしのパパの故郷。周囲に高層ビルなどはなくて、見るからに鄙びた雰囲気だ。たんぼに囲まれている。

 ここから一キロ先に私立の名門の男子校があり、新学期になったなら、男の子として、そこに通うことが決まっているんだけど、どうにも気が乗らない。

 だって、あたし、男の子じゃないんだもん。

 でも、この身体は男なんだよね。ほんと、色々とややこしい。

 だるいなぁと思っていると、この夜、騎士剣がバイト先の居酒屋さんからバイクに乗って帰って来た。騎士は今風のお洒落れなイケメンだ。黒髪はサラサラでよく日焼けしていて精悍という言葉がピッタリ。

「ただいまー。おっ、これが留学生の山田か! 俺と同学年だな。よろしくな」

 鼻筋が通っていて目は大きくて切れ長で雰囲気が凛としている。背が高かった。適度に筋肉もあり、キリッとした感じの今風の男の子だ。彼は、初対面での相手であろうともズバズバと話しかけてくるタイプのようだ。

「よう、居候。先に言っておくぞ。ルールを守って生活してくれよ」

 いきなり、何なのよ。

「ルールって何?」

「いいか。歴代の居候のルールなんだよ。ルール其の一、食い終えたら食器は各自が洗う。ルール其のニ、最後に入浴した者が風呂を洗う。ルール其の三、自分の部屋の掃除と布団干しは自分で行なう。ルール其の四、門限は八時」

「やーだ、門限は十時にしてよ!」

「駄目だ。おまえが夜中に出歩いて変質者に刺されて死んだりしたら、うちの母が泣き崩れることになるんだぜ。それだけは避けたい」

 何なのよ。それ。

 愛する母親を守りたくて命令しているのね。うざくて眩暈がしてきたわ。あたしは疲れていたし、色々と面倒臭いので台所から出ようとすると、あたしの肘を掴み、またしても説教臭い顔で言い放った。

「待てよ! ルール其の一、そこにある食器を洗え!」

「うっ……」

 面倒臭いけれども、脂ぎったお皿やお箸を洗うしかない。あたしは家事なんてやったことがないので、こんなルールを押し付けられてしまい、おおいに不満だった。それなのに、あたしをからかうように見下ろしている。

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