だから、あたしは
14 女の子のいずみ
独立心旺盛な騎士は自分で携帯代を捻出している。金曜と土曜の夜は居酒屋で働いているので一緒に過ごせなくて残念だった。

 正午頃、騎士があたしの部屋に来たんだけど、畳の上にドスンと尻を落として胡坐をかいて、こんなことを報告してきた。

「いずみ、安心しろ。先刻、じぃさんの洗濯物を取りに行ったついでに、鈴木先輩のお見舞いしたぜ。鈴木先輩は元気だったよ。先輩、やっぱり、コンタクトを片方を紛失しているみたいだ」

 朝の検温の際に、美人のナースが何気なく尋ねたところ鈴木はこう答えたそうだ。 

『右目のコンタクトを落としました。片方だけコンタクトを入れて試合に出たんです。遠近感が分からなくて不便でした』

 なるほどね。

「試合で、鈴木の調子が悪かったのには、そういう理由があったのね。お見舞いに行きたいけど、鈴木は、あたしの顔なんて見たくないよね」

 大キライだと思っていたが鈴木の必死過ぎる生き様って人の胸を打つ。コンタクトレンズが買えなくても我慢して黙々と守備をして打席に立ち続けていたのだと思うと感動すら覚えるわ。

いや、待てよ。素朴な疑問が湧いてきたぞ。そもそも、財布を盗んだのは誰? 

「鈴木と直接会いたいの。色々と話したいの」

「やめておけ。家でおとなしくしてろ」

「うーん……」

 確か、鈴木は、あたしの女装写真を見ちゃったんだよね。架空の姉がいることになっている。

「そうだ。あたし、山田アリスとしてお見舞いに行ってみる。双子の姉として鈴木さんに謝罪してみる。姉さんなら部屋に入れてくれるかもしれないでしょう」

 とびっきり可愛い格好をして鈴木に会おう。うん、そうしよう。我ながらナイスアイデアだわ。

「おいおい、また女装するつもりかよ! やめとけ! バレたらどうする。菊太郎みたいな単純な奴は騙せても鈴木さんは無理だぞ」

「平気よ! ばれないよ。鈴木も鈍いもん」

 メイクセットもワンピースも持っているわよ。善は急げだわ。あたしはパジャマを脱ぎ出していた。

「な、何だよ、いきなり」

「着替えるのよ。騎士、あっち向いてね」

「お、おう」

 見ないようにしてれた。ちゃんと女の子として扱ってくれて嬉しいわ。

 鏡の前で付け睫毛を付ける。濃い化粧すればガラッと変わっちゃう。仕上げに栗毛のウィッグをつけたら完成よ! ジャーン! 

「どうよ! 騎士、どう! こっち見て」

「あっ……。うん、可愛いよ」

「でしょう! あたし、このワンピースはお誕生日に買ってもらったの! イエーイ。姉のアリスの出来上がりよ」

 クルクル。フアフア。花柄のワンピースの裾が動くたびにヒラヒラと揺れている。

「いずみ……、マジで可愛いな。本物の女の子みたいだ」

 なーに、その顔。眩しそうに目を細めているのね。ああ、嬉しい。何だかくすぐったくなってしまうよ。

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