だから、あたしは
「女装している時はアリスと名乗っているのかよ? 菊太郎、単純だから、おまえの嘘を信じてるぜ」

「あ……」

 説明できたらいいんだけどね。仕方ないわ。あたしは女装男子ってことにするわよ。ということで小芝居を続けるわよ。

「ふふっ。お姉さんということしておいてよね。こうしておけば、いつでもお洒落できるでしょう? ちゃんと騎士もあたしの秘密は守ってね」

「分かってるよ」

 性別に関する話題になると騎士の顔つきが微妙に強張ってしまう。だって、デリケートな問題だものね。あたしは明るく振る舞い、ぎこちない空気を変えようと質問していく。

「ねぇねぇ、騎士って、どういうタイプの女の子が好きなの? 好きなアイドルは誰なの?」

「特にないよ。そんなことより聞いてくれよ。オレ、夏の間、母さんの為に必死になってバイトしたんだよ。豪華客船の旅のチケットの為に働いたんだよ。明日の午後、横浜から台湾からホーチミンへと向かう豪華客船に乗る。ということで一週間は留守にするぜ」

「ええー、そんな急に決まったの!」

「キャンセル待ちしていたのさ。ちょうど上手い具合に連絡が来た。母さんがいない間は飯を作ってやるよ。洗濯は任せる」

「分かった。洗濯はやるよ。アイロンもかけてみせる」

「助かるぜ。食事の仕度は任せてくれ」

 ああ、若い男女が二人切り。普通ならエッチな展開になりそうなものだけどね。

 だけど、生憎、あたし達は男の子なのだ。だから、何も起きる訳がないと思っていたのだが……。

 とんてもないことが起きるのである。

           ☆

 翌日の午後、あたしは姉の山田アリスとして三階の大部屋へと向かった。

 505号室にいた鈴木は、アリスの急な訪問に面食らっていた。あたしは駅前で買ったケーキの小箱を差し出しながら愛嬌たっぶりに微笑みながら言う。

「初めまして。鈴木さんですよね。弟のいずみから聞きました。ごめんなさい。弟の代わりに謝罪に参りました」

「えっ、あなたは……。あなたが、お、お姉様なのですか!」

 慌てふためき、エロ漫画が掲載されているスポーツ誌を枕の後ろ側へと隠している。

「と、とんでもないです! お姉様! あ、あれは、ボールをよけられなかった俺のミスです。監督もそう言っていました。弟さんのせいではありません」

「あら、そうなの?」

 黒ぶちの眼鏡を鼻ギブスの上に乗せている鈴木が照れくさそうに言った。

「コンタクトレンズをなくしているんです。だから、眼鏡をかけているんです。ダサイですよね」

「いいえ。そんことありません。あなたがどうおっしゃろうとも弟の責任なのです。今回の入院費用はこちらが払います」

「とんでもありません。学園が入院費を払ってくれます。保険が降りますから」

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