だから、あたしは
 嵐のように現れたかと思うと、颯爽と部屋を出ながら高らかに言い放った。

「ツルギ! 治療費はベビーシッター三日分だぞ。双子の面倒をみてやってくれ! それから風呂とキッチンの掃除も頼むぞ」

「了解」

 すると、レナさんは部屋から出て行く際にふざけたように告げた。

「ツルギ! いずみくんが可愛い顔をしているからってボーイズラブはいかんぞ! 今夜は安静にしていなければならんぞ。いいな。決して寝込みを襲うなよ! ちゃんと自制しろよ」

「うるせぇ! しねぇよ!」

 騎士が素早くクッションを投げている。あたかも予測していたかのようにレナさんが鞄で払い除けると、あははと高笑いをしながら去って行ったのだ。ボーイズラブ? どこまで本気で言っているのだろう。

 振り向いた騎士が苦笑している。
            
「すまん。俺の姉ちゃんは変人なんだよ。ああ見えて天才なんだよ」

「サバサバしていて素敵なお姉さんだよね。な、なんか、すごくファンタスティック」

 他に褒め言葉が見つからない……。レナさんのおかげで、あたしと騎士は普通に話せている。ぎこちない空気も見事にどこかに吹っ飛んでいるわ

「あたし、伏せ、お座りとか……。そんな事を言われたのは初めてだわ」

 すると、騎士が懐かしそうに笑いながら語り出した。

「姉貴、俺の部屋で騒いでいた菊太郎に向かってハウスって叫んだこともあるぜ。菊太郎、普段は鈍いのに姉貴の命令に敏感に反応してすごい勢いで自分の家に帰っていったんだよ。命令がドンッと伝わるってところが凄いよな。気迫が凄いから、たいていの動物は服従させちまう」

 菊太郎のコミカルな様子が脳裏に浮かぶ。

「やーだ、菊太郎ならありえる」

 あたしの表情がほころんだ事にホッとしたのか騎士の表情も緩んでいる。そして、いつものように饒舌になっている。

 先刻のキスなど無かったかのように軽妙に語り続けている。

「姉貴は、外科が専門なんだ。北海道の獣医学部で学んだんだ。馬術競技の大会で優勝したこともあるくらい馬が好きなんだよ。今は、自宅兼診療所の脇でロバを飼っているよ。保育園のバスが来るところまでロバの背に子供を乗せて送り迎えしているんだ。ロバの先生と呼ばれているよ。姉貴は、ドリトル先生並に動物との意思疎通をやってみせるんだ」

 すごい変わり者で、なおかつ天才なのね。

「姉貴、仕事は出来るけど、変人だし家事が苦手だ。通いの家政婦さんを雇っている。姉貴の息子は三歳ですごく可愛い。でも、昔、娘に犬の母乳を飲まそそうとしたこともある。家政婦さんが、必死になって引き止めた」

「さすがに犬の母乳はマズイ気が……」

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