だから、あたしは
17 姉、現る
 ドンガラガッシャン。玄関先で何かが倒れたらしい。

 バシン、ドカン☆ ガッターン! 猛然と階段を駆け上がる音が近付いてきたかと思うと、騎士の部屋のドアが開いたんだけど……。

 うわっ、誰か来た。

「ツルギー。患畜はどこよ!」

 戦場の武士の怒号のようなガツサな声が室内に響いている。一瞬、女装の金太郎が入ってきたのかと思った。

「あ……、姉貴! おまえ、もっと静かに来いよ。ノックぐらいしろ!」

「何をぬかしておる。ここは実家だぞ。姉弟で何がノックだ。天才ドクターのあたしは忙しいんだよ! 明日は、アジア象の花子の高齢出産の予定日なんだよ。ツルギ、殴られて死にそうな瀕死の子犬はどこにいるんだよ!」

 白衣姿の小柄な女性が騎士のお姉さんのレナさんなんだよね? 身体は小さいけれどもパワフルな女性である。地蔵のような地味顔なのにレナさんには独特の迫力と勢いがあった。

「姉貴、人の話をよく聞け! いつも、おまえはそうだ。殴られた子供って言ったんだよ! 子犬じゃねぇよ。この子だよ!」

「あら可愛い子だね! ワンピースなんて着て何なのさ。もしかしてオカマなのか?」

「姉貴、失礼だぞ、言葉を慎めよ」

 騎士の言葉などスルーしながら彼女は診察用の黒い革の診察カバンをズンと布団の上に置いて、白衣の袖を腕まくりをしている。

「最近じゃ、女装家って言うんだったか。それともお姐の方がいいのかい。君、うちのじじぃが預かってる子だよな。派手に殴られたようだね。いいから、とっとと服を脱ぎなさい!」

 レナさんは冷たい聴診器を背中に当ててている。

 その後、互いに向き合うと、彼女が細くて冷たい指でヒョイとあたしの顎先を掴んだ。

「公園で犬や猫を苛める奴が大勢いるが、あたしは瀕死の子犬を何度も救ったことがあるぞ! 心の傷も全部治してやる! はーい、まずはお座りして! 次にお手!」

 えっ。お手ですか?

「ほら、いい子にしてないと診察は終わらない。坊や、いいから右腕を出しなよ。脈を計るよ」

 スパッ! 竹を割って地球まで割りそうな勢いだった。犬のように手を出すと脈や血圧を測ってくれたのだ。見た目は幼げなのに診察も治療も荒っぽかった。そして、レナさんが怒涛の勢いで喋り出した。 

「化膿しないように消毒もバッチリしてやった。あとは、ちゃんと清潔にして安静にしておけばいいぞ! いずみ君、こんな事ぐらいで挫けるんじゃないよ! 分かったか? 返事は!」

「は、はい!」

「よし、いい子だね。これはサル用だが気にするな。君はすぐよくなる。効果は一緒だ」

 あたしは化膿止めと痛み止めの錠剤を受け取った。しかし、内心、飲んでもいいのかしらと不安になる。

「あたしは優秀ゆえに忙しいから帰るぞ。さらばだ! 家で夫と子供があたしの帰りを待っているからな!」

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