だから、あたしは
18 キスのあと
 シンとしていた。本棚の置き時計を見ると午前四時になっている。騎士は、冷たい床の上で服を着たまま横向きの格好で眠っている。

「風邪、ひいちゃうよ」

 十月の末。真夜中になるとヒンヤリと空気が冷えるよね。騎士の背中に毛布をかけてあげた。そして、部屋を抜け出して忍び足で一階に降りていくと、銀色の大型のキッチンの冷蔵庫を空けてコカコーラを飲み干していく。

 昨日のお昼、病院の売店で菓子パンを食べてからは何も口にしていないわ。パン粉をつけて準備完了のコロッケが冷蔵庫に入っているのよね。騎士も、夕飯を食べてない。ごめんなさいと言いたくなる。

 本田のことなんて忘れたい。あの部屋てせ浴びた悪意なんて一気に清めてしまいたい。あたしは熱いシャワーを浴びることにした。

 シャンプーの香りに包まれていると少しだけ穏やかな気分になっていた。すると、たちまち、甘い記憶が立ち昇ってきた。

 騎士の顔を何度も思い浮かべている。愛しくて胸がキュンキュンしている。

 あたし、自分からキスしちゃったよ! あの瞬間、魂が熱くとろけるかのようだった。自然に湧きあがってきた愛しさに押し出されて……。

 気付いたら唇を合わせていたのよ。全身を貫く甘い感情を思い出して赤面してしまう。何度も思い返さずにはいられない。

 好きなの……。騎士に抱きしめられたい。境界線がなくなるようなキスをしたい。嗚呼、この本能をどう鎮めたらいいのだろう。

 胸に手を置いて溜息を吐き出していく。その時、ポヨンとした感触に気付いたのだ。 

 なに、これ? 二つの膨らみを見下ろしていく。

「きゃーーーーーーーーー! 何、これ!」

 思わず大きな悲鳴をあげてしまった。頼りなくぶら下がっていた粗末なチンコが消えているじゃないか。もしかして女の子に戻ったのだろうか! 自然治癒ってやつなのかな? 家畜に使う薬を飲んだことが良かったのかしら! 

 きゃーーーーーっ。奇跡ってあるのね。いつのまにか女の子に戻っている。胸も、うっすらと回復してる。

「ヤッホーーーーーーーーーーーーーー。ブラボーーーーーーーーーーーー」

「いずみ! どうした! 何かあったのか!」

 二階にいた騎士に悲鳴が聞こえてしまったらしい。

「な、なんでもない! 本当に何もないってば!」

 風呂場のガラス戸を閉めて鍵を閉めていく。やだやだ。こんなの絶対に見られたくない。

「でも、おまえ……」

 騎士は脱衣所から両手をガラスに付けて浴室を覗き込んでいる。こんなの困るのよ。 見ないで欲しいよ。

「な、何でもないって言ってるでしょう! 騎士のエッチ! 出て行ってよぉーー!」

 甲高い声で騎士を拒み続けていくしかなかった。騎士としては納得いかないようだけれども頷いている。

「……無事ならいいんだ」

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