冷徹大臣の雇われ妻~庶民出身成り上がり女官の次の就職先は伯爵夫人ですか~
「――それでは、誓いのキスを」

 神父の声に、男の手が伸びてくる。

 上質なヴェールを上げた彼は、リリアンと見つめ合った。

「カンディードさま」
「では、今後よろしくお願いしますね。――リリアン」

 彼は冷たい瞳のまま、リリアンの名前を呼んだ。

 そして、唇に軽いキスを落とした。

 招待客たちが拍手をしている。神父が言葉をつむいでいる。

 しかし、リリアンはこの出来事をどこか他人事のようにとらえていた。

(私はこの人に『雇われた妻』だから。……きちんと、働かなくちゃ)

 リリアンはカンディードを見つめる。

 冷たい美貌の中に温かみはない。無機質な目で自身を見つめるカンディードは、リリアンに期待していない。

 とてもよくわかる。

 そりゃそうだ。彼が望んだのは――『貴族ではない妻』なのだから。

(けど、これも全部ロジアネのためよ。私はお姉ちゃんだから)

 挫けそうなときはいつだってこの言葉で自分を奮い立たせてきた。

 リリアンは、いつだって『いいお姉ちゃん』でいたかったのだ――。
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