呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
(それが続く限りは、大丈夫)

 そう何度も自分に言い聞かせることでしか、イブリーヌは彼を信じられない。

 この時点で彼女に行動力があれば、離縁したいと大騒ぎしてもおかしくない扱いを受けていたのだが――。
 生まれて間もない頃から虐げられてきた彼女は、冷遇されることが当たり前になっていたせいだろう。
 我慢強い性格であった彼女は、自分の伝えたい気持ちを心の奥深くに沈めてしまった。

 ――そうした生活を続けて一年が過ぎた頃、彼女の心を揺さぶるある事件が起きた。

(陛下だわ……)

 いつものように窓の外をじっと見つめていたイブリーヌは、黒いマントを翻す夫の姿を見つめる。

 彼は妻が寝室からその光景を眺めていることに気づきもせず、右腕に絢爛豪華なドレスを身に纏った女性を侍らせていた。
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