呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない

 イブリーヌはオルジェントの妻になったが、それはあくまで書類上の話だけだ。
 あれから彼は、妻を一人寝室に残して、一切姿を見せる気配がない。

 新婚とは思えぬほどに。
 夫婦仲は完全に、冷え切っていた。

(仕方ないわ。私達は、愛し合って結婚したわけではないもの……)

 ――最初のうちは、我慢できた。

 たとえ彼の姿を、間近で見られなかったとしても。
 繋がりを断たれ、夫と連絡を取る手段がなくたって。

 イブリーヌのそばにはいつだって、彼のパートナーである白猫が一緒にいてくれた。
理不尽な怒りをぶつけられて虐げられるよりはずっといいと、考えていたからだ。

『無駄だよ』
『彼が君を、大切に慈しむことはない』
『最低男と縁を切れ』
『復讐しよう! そうしよう!』

 亡霊達に何を言われても、彼女は聞く耳を持たなかった。

(私は陛下に、嫌われているわけではないもの……)

 オルジェントの姿は時折窓の外を覗き込めば、遠くから確認できる。

(陛下は定期的に、使用人さんや白猫さんを通じて私を気にかけてくださるし……)

 彼が生きていることさえわかれば、彼女はそれだけで充分だった。
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