呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
『陛下……』
『……イブリーヌ』

 カフェテラスの椅子へ向かい合わせに座り、互いの食事をカトラリーに一口分だけ乗せて食べさせ合う姿は、誰の目から見ても。
 二人が心を通じ合わせた。相思相愛の夫婦に見えなかった。

(なんで! どうして! あんな、ぽっと出女なんかに! わたくしのオルジェント様を、奪われなければならないんですの……!?)

 通行人達が羨望の眼差しを向けながら祝福をする姿を思い浮かべたアメリは、りんごを粉砕するだけでは怒りを沈めきれなかったのだろう。

 もう一度ゴミ箱を勢いよく蹴りつけ、破壊した。

(オルジェント様がイブリーヌのものになった? それはあくまで、第一夫人の話ですわ。第二婦人の座は、まだ空いている……)

 オルジェントの妻になることだけを目標にして幼い頃から生きてきたアメリにとって、彼の愛を一身に受け、幸せそうに微笑むイブリーヌは敵でしかない。

(あの女の方が先に妻として娶られたことは、許してやってもいいですわ。早く、イブリーヌと対等になりませんと……)

 彼女を蹴落とすにも、準備が必要だ。
 イブリーヌに対する憎悪を抱いたアメリはゴミが散乱した現場からすぐさま立ち去り、テランバ公爵家へ帰宅した。
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