呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
(やっと、幸せになれると思ったのに)

 期待していただけに、落胆は大きい。

(陛下なら、人々に忌み嫌われる私を好きになってくださるかもしれないと……期待していた自分が馬鹿みたい……)

 隣に並び立つ彼の顔など、見る気にもならなかった。
 彼女は暗い顔でウエディングドレスの裾を握り締め、悔しそうに瞳を潤ませ――。
 か細い声で、宣言した。

「誓いま、せん……」

 イブリーヌはオルジェントが激昂するかもしれないと怯えたが、彼は無言を貫き続ける。
 ――二人の間には、気まずい沈黙が流れる。

『亡霊の愛し子が人間として、幸せになろうとするのが間違いだったんだ』

 そんな中――彼女の耳元で、ノイズ混じりの恐ろしい声が聞こえてきた。

『私達の愛し子』
『イブリーヌ』

 それらは口々に声音を変えて囃し立て、イブリーヌを惑わす。

(こんな、時にまで……)

 彼らの声を聞きたくない彼女は、両耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいになりながらも、歯を食いしばって耐え続ける。

『つらくて苦しい現実が、生きている限り一生君を苛むのなら』
『僕達があいつの代わりに、たくさん愛してあげる』

 ――彼らは亡霊。
 肉体を失い、現世を彷徨う死者だ。
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