呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「……いいの。お願い。静かにして……!」

 自分にしか聞こえない声との対話は、他者に恐怖を抱かせる。
 オルジェントはそれを自覚しているからこそ。
 白猫と対話を行う際は、周りに人がいない場所でしかハクマに話しかけないが――数えきれないほどの亡霊に愛された彼女は、そうもいかないのだろう。

「お腹、空いた……」

 彼はあと一歩、足を踏み出せば届く距離までイブリーヌに近づいたが……。
 彼女はオルジェントの存在に、気がついていないようだった。

(トランス状態にでも、陥っているのか……)

 これはかなり、まずい状況だ。
 彼女の周りに纏わりつく闇のオーラは、悪しき魂達の集合体である。

 彼らはオルジェントを嫌っているし、本来であれば攻撃してきてもおかしくないのだが――それをしてこないのであれば、女王の覚醒が近いと考えるべきだろう。

(彼女が女王になれば、俺の命など簡単に奪えるらしいからな……)

 こんなところで、死ぬわけにはいかない。
 そんな強い気持ちを胸に抱いたオルジェントは、注意深くイブリーヌを見つめた。
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