呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「悪意を持った悪しき魂達が、君を地獄へ誘うのであれば。すぐに俺に報告しろ」
「へ、陛下……?」
「安心しろ。君に仇するものは、俺の鎌で全て屠ってやる」

 イブリーヌは最初、何を言われているのか。
 よく理解できていなかったようだが――。

 オルジェントの曇り気のない、真っ直ぐな眼差しを目にした彼女は、彼を信じると決めたようだ。

「……はい」

 彼はイブリーヌと意思確認を終えると、彼女の細い腰に両手を回し、丁寧に抱き上げる。
 人間と至近距離で触れ合う機会がなかったイブリーヌは、どうすればいいのかわからず困惑しているようだ。

「両腕は、首元に」
「こ、こう……でしょうか……?」
「ああ。上手だ」

 おずおずと彼の首元に両腕を絡ませ、抱きつく姿をすらも初々しくて愛おしい。

「行こうか」

 オルジェントは未だかつてない幸福に包まれながら、彼女を自国へ連れ帰った。
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