呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「全部、壊したら……。楽に、なれますか……?」
『もちろん!』
『悪い奴らはみんな、全部倒せばいい!』
『女王の意志は、絶対! 誰も逆らえない!』

 亡霊達はやっとイブリーヌがその気になったと浮足立っているようで、迷う彼女の背中を押した。

(でも……。陛下は、亡霊の声に耳を貸してはいけないって……)

 夫に手酷く裏切られ、妻とは名ばかりの状態で三年間放置されていたとしても。
 彼女の脳裏には、オルジェントの言葉が深く刻み込まれている。

(手を伸ばしたって、無駄なのに)

 もしかしたら、追いかけて来てくれるのではないかと、期待している自分を否定できず――。

「私はこれから、どうしたらいいのでしょうか……」

 思い悩む彼女はゆっくりと目を閉じ、ある願望を頭の中に思い浮かべる。

(このまま古びた洋館が倒壊して、生き埋めになったら……。一瞬で、楽になれるだろうか……)

 イブリーヌが人間に憎悪を抱いたまま命を落とすことを、彼らだって望んでいるのだから。
 夢や希望を見出せない現世に留まり続けている必要など、ないのではないか。
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