呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
 そうして覚悟を決めた王族は――己が手にした武器を人ではなく、得体のしれない悪霊に向けた。

「人と亡霊達の小競り合いは、100年にも及んだ。悪しき魂達だって、馬鹿ではないからな。150年を超えたあたりから、彼らも悪知恵をつけた」
「知恵、ですか……?」
「そうだ。王族から身を護るためには、強大な力を得た上で、俺達が手を出しにくい存在を生み出す必要があると考えた」

 イブリーヌは彼がこれから紡ぐ言葉に、心当たりがあるようだ。
 不安そうにあたりを見渡すと、自身の周りに浮かぶ悪しき魂達に視線を巡らせる。

 オルジェントの口にする内容が事実であれば。
 亡霊達もその話に嘘偽りがないと、口々に囁き合うはずだ。

『亡霊の愛し子、誕生の瞬間!』
『イブリーヌはみんなの、女王様!』

 悪しき魂達は恐ろしい笑い声を上げながら、彼女が生まれたことを喜ぶ。

(私の、誕生秘話……?)

 イブリーヌがその声を耳にして、目を丸くした直後。
 もったいぶっていた夫の口から、似たような言葉が紡がれた。
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