琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
ロイさんのお迎えが来て、昨日と同様二人でエントランスに下りていく。
「おはようございます。クリス社長、奥さま」
ロイさんも昨日と同様美しい所作で挨拶をする。
「ああ、おはよう。今日もよろしく」
「かしこまりました」
「おはようございます。ロイさん」
私の挨拶にロイさんは人好きのする笑顔を浮かべる。
ああ、まずい。そういえば、目が合ったら妊娠しちゃうんだっけ。
確かにこの顔で微笑まれたら女性はぽーっとするだろうしそのうち何人かは誘われたら付いて行ってしまいそうだ。
なんとなく身の危険を感じて一歩下がりクリスの背後に入って視線が合わないようにするとクリスが「偉いな」と褒めてくれる。
「あれまだ信じてんのか・・・」とロイさんが呟くのが聞こえる。
念のためですよ、念のため。
「じゃあ、行ってらっしゃい、クリス」
「滉輔の会社の前まで送ってくから葵羽も一緒に乗っていけばいいだろ」
有り難いけど、それって車内でまたイヤホンに目隠しなのでは。
それに、うちの会社の近くは交通量が多く朝は特に混んでいる。今日クリスがどこに行くかは知らないけど、遠回りになってしまうかもしれないし。
「ううん。歩いてもたいした距離じゃないし、昨日食べ過ぎちゃったから歩かないと。ロイさん待ってるからクリスも早く行って」
「そうか、じゃあ行ってくるな」
クリスが私の頭に手を当て額にキスをする。
「帰りが早かったらまた一緒に夕飯を食べよう。あとで連絡する」
「うん」
「うわ。昨日より空気が甘くなってるんだけど。絶対気のせいじゃない。夕べ何があったのさ」
ロイさんが興味津々という目を向けてくる。
クリスはふんっと鼻で笑い私はもちろん聞こえないふりをした。
クリスに「行ってきます」と「行ってらっしゃい」の手を振り、ロイさんに「よろしくお願いします」と声を掛けマンションを出た。
・・・・・・うわーうわー、びっくりした。
空気が甘いって何。
他人がそう思うほど、私とクリスの関係が変わったって見えてしまうのものなの?となるとまわりにもクリスにも私がクリスのこと好きっていうのもバレバレなのかしら。
平静を装って歩き出したものの心の中は大慌てで心臓はバクバクしていた。
今まではどっちも演技だった。いや、クリスは今でも演技かもしれないけど。
問題は私の気持ちの方。
やっぱりね、クリスが好き。
いろいろな顔を見せてくれていろいろ知って、もっと好きになってしまった。
迷惑じゃなかったら一緒にいたい。
朝のキスもびっくりしたけど、イヤじゃなかった。
だからこそきちんと話がしたい。
クリスの彼女の噂が本当なのか、この先も私と結婚したままでいいのかとか。
どうしてこのタイミングで距離を縮めるようなことをしてきたのか。
あと、
出来れば、
ーーー私のことをどう思っているのか。