琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
クリスが帰ってこなくなって3週間が経とうとしていた。


このところ物足りないような寂しさに襲われてしまうことがある。

きっと自分が思っているよりずっとクリスに依存している。


「・・・ちゃん、おーい、葵羽ちゃん」

「あ、は、はいっ!きゃあ」

滉輔さんに呼ばれていたことに気が付かず、驚いて立ち上がった途端にデスクの脚で膝を打った。

「おい、大丈夫?結構いい音してたぞ。明日真っ青になってるかもだな」

「はぁ。わたしもそんな気がします」

支えが必要なほどの痛みはないけど、打った膝がじんじんする。暫くスカートは履けそうにない。

そそっかしいのは昔からだけど、久しぶりにやっちゃったって感じだ。

「クリスが葵羽ちゃんが電話に出ないって心配してるけど」

「え?」

スマホを取り出すと、確かにクリスからの着信履歴が残っていた。
こんな時間に電話は珍しい。
いつもは寝る前とかもう少し遅い時間だ。

「ありがとうございます。すぐかけ直します」

「そうして。あいつ結構心配性だから」

滉輔さんは笑いながらデスクに戻っていった。



たったツーコールで電話に出てくれたのだけど、クリスの声は何となくいつもと違う気がする。

『今どこにいる?』
「まだ会社だけど」

『残業?』
「・・・うん。デザイン室の面談の関係で。でももう終わった。何か急ぎの用だった?」

『あー、うん、こっちもそうだったけど、もういいんだ』
「ん?いいの?」

「ーーーあの、そっちの仕事はまだかかりそう?」

『もう少しだな。どうした?何かあったか?』
「そうじゃないけど。ーーーえーっと、来週の叔父の面会は大丈夫かなって思っただけ」

『それは心配しなくていいよ』
「そう・・・・・・あ、クリス誰かに呼ばれてる。もう切るね」

電話越しにクリスを呼ぶ声が聞こえてきて、残念だけど通話を切り上げることになってしまった。

『ああ、頼む。じゃあまたな。・・・・・・I can’t wait to see you.』

電話が切れる直前に聞こえたのはーーーもしかして、クリスも私に会いたいって思ってくれてる?
それって待ち遠しいってこと?


とっくに電話は切れているのにスマホを握りしめて、ちょっと悶えた。



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