毒と花。
「お姉さんいくつ?」
「21ですけど、早くスマホ返して!」
「僕に付き合ってくれたら返したげる」

優しく、でも鈴蘭が振りほどけない力で腕を引く。
やがて訪れたのはヘアメイクサロンで、黒服の彼は「この子お願いね」と言った。

「ちょっと、早くしないと終電なくなっちゃうんですけど⁉︎」
「どーせ帰りたくないんでしょ?今日くらいいいじゃない」
「…」

鈴蘭は何も言い返せず俯く。帰りたくないのは事実だし、スマホは彼の手の中。
彼女にできる事は何もなかった。
メイクをした事ない彼女にとって、肌をなぞるブラシの感覚はくすぐったい。
そうしてメイクを施した自分の顔を見た時、彼女は驚愕した。
これが私。何者でもなかった自分が、鏡にとても綺麗になって映っている。
「すごーい…」
「ほらやっぱり、綺麗になった。行こう」
鈴蘭の手を取り、彼はまた歩き出す。
夜の繁華街はネオンがきらきらしていて。
夜の街に生きる者たちにとって、これが本物の太陽だろうか。
鈴蘭はぼんやりと考えている間にとある店の前に到着した。
「ここ僕が内勤やってる店」
「内勤って、…まさかキャバクラですか⁉︎さっき興味ないって言いましたよね、無理です私なんて」

鈴蘭は彼の手を振り払い、スマホを返せと手を出す。
しかし彼はそれを無視した。

「キャバじゃなくてガールズバーね。大丈夫だよ」
「嫌です水商売なんてできません、こんなの知られたらお母さんがなんて言うか…」
「またお母さん?帰りたくない、嫌いなら嫌いって言ったらいいのに。」

その発言に鈴蘭は俯いた。

「そんなの、言えたら苦労しないもん…。」

彼女も学生の頃は両親に反発した事もあった。
その度に彼女の未熟さを責められ、叩かれ、制限され、そのうち諦めて両親の全てを受け入れた方が楽だと、自分の心を踏み潰してしまった。
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