溺愛してみたい君振り向かせたくて
 3


「あー。トレーナーさん、行っちゃ嫌です」


  俺が悶々と考えていたら、えみの可愛らしい声音が響く。

 えみは、通りすがりのレスキーを引き止めていた。

 甘ったるい感じで手招くから、俺は目を吊り上げてしまう。

「えみ、レスキーなんかにきかなくても問題はない」

「そんなことないです。最高に美味しい方がいいですって。違います?」

「えみは、俺の教え方がそんなに不満? ならばそう言えよ」

 先ほどのえみの声音が耳に残っていて、俺はついつい毒を吐いてしまう。

「不満なんてありません! でもどんなに上手くても、向上心は持つべきです」

 えみは、両拳を握りしめて力説してくる。

 えみに呼ばれてそばまできたレスキーは、俺に怯まない彼女の様子に、目を瞬かせている。

「向上心ねえ」

「そうです。第三者にきいたほうが一番ですって。改善すると、もっと上手くなりますって」
 
 えみは、俺の心知らずに言ってきた。

「だがなあ」

 俺は、自ら折れるのが嫌いなので再度渋ってみた。

「味見してもいいけど、痴話喧嘩見せつけるだけならば、行くけど?」

 お互い睨み合っていると、レスキーが口を挟んでくる。

「ち、痴話喧嘩じゃないです」

「それならばいいけど。さすがだねえ、未来の白石夫人。祥とやりあうなんて」

「口が上手いですね~、トレーナーさんって。あなたのようにもっと上手いポトフにするためにも、味見してみませんか?」

  えみは、俺の意を無視して、レスキーを見ている。

  あろうことか、自分が使っていた小皿で味見に使った。

「えみ、何をしている?」

 俺は、えみの行為に怪訝そうに声をかけた。

  えみは、俺に気にすることなくそのままレスキーへ小皿を渡した。

 レスキーは、俺の意に気づいているのか、気がついてないのか、そのままえみに言われるままに小皿へ口をつけた。

「……んん~。多分塩と胡椒がが足りないのかなぁ」

「あの、味は濃いほうが?」

「違うけど」

「そうですか。白石さん、味は濃いほうがお好みですか?」

 えみは、レスキーの言葉をきいて唸ったあと、俺を見た。

「どっちでもない」
 
 俺は、不機嫌そのままに答える。

「ならば白石さん、加えましょうか?」

「へえ。まだ名前じゃないんだね」

 えみの呼び名に、レスキーが反応して意外そうに言う。

  俺は、ますます目を吊り上げた。

「えっと、確か塩と胡椒ですね。いいでしょう? 白石さん」

「えみ、白石じゃなく、祥でいい。レスキー、どのくらい入れればいい?」

 えみとレスキーが会話するのが嫌になり、俺は睨みつけるように彼を見据える。

「ねえ、えみちゃん。祥は何もいらないのでは?」

「へ? そ、そうなのですか? 白石さん」

  えみは、俺の言葉をきいてないのか、無視しているのか。

 レスキーも、わざとえみの名を呼んだのか?
 
 二人揃って、結託している?

 またもや俺が苛立つようなことを言ってくる。

「えみ、言っただろう? 祥でいいって」
  
 とうとうえみを睨んでしまった。

 冷静沈着と、自他共に認められているはずなのに。

 俺って、こんなにも嫉妬深かったのだろうか?



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