溺愛してみたい君振り向かせたくて
 3


 俺は、慌ててえみを自分の胸元へ押し付けて、両腕で拘束した。

「そんなこと、思っていないって。俺は割り切ってそうだったけど、えみも同じとは違う意味で言った。えみは男嫌いだと言うけど、俺といると楽しいって、そう言っていただろう? ならば誰かそばにいてくれる人を求めているはずだ。違う? それとも俺に言ったこと、嘘だった?」

「そ、それは、嘘じゃないけど」

 俺の言葉に、えみの動きが止まる。

「だろう? 俺はえみと過ごしたことで、一緒にいたいと願い、引き止めた。えみだって、俺が連れて行った時助けなど呼ばなかっただろう? ならばやはり、お互い惹かれている。きっと、誰かそばにいる人を求めているはずだ」

 俺は、自分の胸の内がえみと同じことを祈りながら言い連ねた。

「私は、本当母を不幸にしてきたのです。私といると、まずいですよ? もれなく危険なストーカーがついてきます」

「ストーカー?」

 えみの口から、またもや俺を刺激するような単語が投げられてきた。

 ストーカー?

 確かに春日教授が面白いことを言っていた。

 えみは、俺様の俺と似ている人が惹かれる悪女だと。

「そうです。留学していた時、ある人に気に入られて。彼が気分悪いところ保健室へ連れて行き助けたのに、いきなり襲ってきて。俺様すぎて。私が今井家から離縁したほうがいいのは、その人を遠ざけるためもあります」

 えみの事情が、一つ一つ明らかになる。

 俺は、攻略しがいのある彼女に興味が膨らんでいるだけで、引く気にはなれずにいた。

「へえ。えみを追いかけている男って、どういう男だろう? 春日教授が言ってたみたいに、俺と似ている?」

「多少は。横暴なとことか。でも貴方は、優しいです。今井家の利益とか考えているかどうかわからないけど、最初から正直で丁寧に接してくれて。それなのに、なぜ私以外にその後他に、本気になれる彼女とかいないのですか?」

 えみは、不思議そうに俺を見ている。

 俺に関心を持ってくれたことに、俺自身とても嬉しく思えた。

「えみ以外興味ない」

「え?」

「だから、えみは初めて本気で欲しいって思っている。他の女性とは違い本気で、損得抜きにして」

「わ、私は歌えないですよ?本当に」

 えみは、困惑を隠しきれずにいるが気持ちはわかる。

 だが俺は、止めることが出来ずにいた。

「本当、不思議だよ。俺も思う。でもね、えみを見た時、歌声よりもずっと、俺の半身かもって、思ったりしている」

「え?」

「何て言うか、俺のもろ好みだし。派手な子はアクセサリーとしてはいいけど、本気になれなくて。俺は女性って信用出来ない経験がある。それなのにえみは媚びたりしない。それよりも俺を遠ざけようともする。初めてかもって。それはえみの手口?」

 俺は、思わず毒を吐くと、えみはすぐさま顔を顰めて逃げようとする。

「そう感じているならば、離して!」

「嫌だ。俺はえみのことが知りたい。真実の姿をもっと知りたい。ストーカーがいたって、今井家のことなくても、そばに置きたい。他の男になんて渡すつもりはない」

 俺は、どうしてもわかって欲しくて本心を曝け出す。

 えみの動きが、再度止まる。

「……」

「だって、こんな面白いことないね。攻略しがいありすぎ。仕事と同じくらい刺激的で」

「刺激的なのは、私の事情だけかもしれませんよ。私自身いたって、普通って思っています」

 えみは、小さく息を吐くとぽつりとぼやくように言う。

「大丈夫。俺の母も普通の人。名家のお嬢様じゃない。父の秘書だった人で、平凡な家庭育ち。えみと同じくらい気が強いけど、おっとりとしている。でも一緒にいると癒される。俺ってマザコンかもしれないなあ、そう考えると」

 俺は、自分の好みを感じてうーんと唸ってしまう。

「……そうかも」

「はっきり言うな。でも、母とはべったりとかじゃない。年に数回会えればいいほう。父が焼きもち焼きでさ、無理なわけ。俺の半身は母じゃないし、自立した以上自分で探したい。見合いだって偶発的で俺は了承したつもりはなく、会わされただけだから」

俺は、とりあえず妙な誤解がないように願いながら言った。

「貴方は、面白い人ですよね」

「面白い?」

「普通は、自分でマザコンなんて言わないです。それにすぐにムキになるから、可愛いかも」

「えみ、年上の男に、可愛いはないだろうが。失礼だなあ」

 えみの言い草に、俺は溜息をついて言う。

「だって、そう思ってしまいましたから。大人なのに攻略しがいあるなんて、少年ぽくて」

「男は、幾つになっても少年の心はあるんだよ。えみははっきりしているよな。虐められそうなタイプじゃないのに」

「短気なだけです。今井家では、言葉を発しないことに勤めてきました。部屋にこもって勉強ばかりで。学校がずっと天国です。姉と年が離れていて、本当に良かったって」

 えみは、しみじみ言ってくる。

 彼女の現況を感じ、俺は不憫に思った。

 好意的に俺を見てくれているのも、わかっている。

 ならば、手に入らないわけじゃない。

 そう。

 もっと知りたい。

 この目で確かめたいと、強く願う自分がいた。

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