溺愛してみたい君振り向かせたくて
 2


「祥さん、私とは本当に関わらないほうがいいです。不幸を呼ぶそうですから」

「不幸?」

 えみは、俺を見つめることなく俯いたまま瞳を曇らせている。

「そうです。生まれた時から、男として生まれなかった時から、私の不幸は続いています。本当女性でなければ、こんな厄介なことになっていなかったかもしれません」

 震える声音で言うえみは、どう見ても演技をしているようには見えない

 自分を卑下し、俺の知っているてらいのない表情から、かけはなれた彼女のしがらみ。

 俺の心に、しっかりと響いていた。

「そんなこと言って、自分を責めてはダメだ。誰にだって生きる権利はある。幸せになる権利が。違う?」

「でも、私が男だったら、母は苦労しなくてすんだでしょうから」

 えみは、言葉を切ると、涙を堪えて小刻みに震え出す。

 俺の片腕の中にいるえみの、その嘆きが伝わってくる。

「えみ、過去は過去と、見ないと進めない。ちゃんと前を見ろよ」

俺は、えみの顎を引き上げて自分へ向かせた。

「祥さんには、わかりません。私がどんなに蔑まれてきたか」

「わかる。俺だって順風満帆じゃなかったから」

「え?」

「えみは、俺のことわかってないみたいだね。裕福に暮らしていたように見えるが、実際セレブとはほぼ遠い暮らしだった。父が厳しい人で、ノルマが山ほどある帝王学を学びながら、しがらみの中生きてきた」

 俺は、自分の過去を披露するのは好きじゃないが、えみには必要だと思った。

 彼女の痛みは、俺の痛みと少し似ていたから。

「しがらみがあるなんて、そんな風には見えません。私と違って自信たっぷりだから」

「それは俺が積み上げてきた努力かな。負けん気が強かったから、父を見返してやりたかった。母に嫌われたくもなかったから、グレることなく前へ進めた。えみだって、支えてくれた人はいるのでは? 瞳は曇りがちだけど、すれてないから」

 俺は、自分の目を信じることにした。

 えみの言動や、瞳にある生真面目さを信じていた。

「祥さんは、春日教授のこと、信用していないのですか? 私よりつきあい長いのに」

「単なるつきあいの長さで、信用するしないは難しいよ。確かに父の友人だけど、父と似て利己的なやつだから」

「無償で助けてくれる、大事な友達はいます。でも私には、本当に力なんてないです。 姉と違って今井家の力なんて……」

「えみは、拗ねたところあるよな。その姉に虐められすぎちゃった? でも大人になれば、わかる。お金だけじゃなくて、自分の大切なもの、信じていきたいものを」

 俺は、自分に言いきかせるように言った。

 今目の前にいるえみを、手放したくない想い。

 攻略方法の先について、自分を信じるしかない。

「大人になれば……。そうですね。私は今井家から離れ、一人になれる。天涯孤独だけど、やりたいことはいっぱいあるから怖いものはないのかも」

「天涯孤独?」

 えみの口から物騒な言葉が飛び、俺は眉を顰める。

「そう。父が言っていました。父親として、男として生まれなかった私を扶養するのは、学生までと。自分はしえ姉さんや彼女の母親から、何よりも愛する人を守るのに精一杯だからって。私自身、世界に出て自由のほうが、今井のしがらみに囚われず楽だろうって」

 えみは、言葉一つ一つ噛み締めながら言ってくる。

 俺自身離縁を突きつけられた経験はあるが、ここまで非情な父親も問題だと思った。

 えみを手放すことで、しがらみから解放?

 それはどうなのだろう?

 疎まれてきた娘を守れない自分への背徳心から、そんなことを言っているとしか思えない。

 俺は、ふつふつと怒りが込み上げてくる。

「えみは、俺が貰う。それでもいい?」

「何を言っているのですか? だから私は今井家とは」

「関係ない。俺も自分の実家に頼って生きてはきていないが、勘当までされてはいない。でもえみは違う。どうあれ誰かがそばにいたほうがいい。違う?」

 俺は、えみの瞳を覗き込むが逸らされてしまう。

「……どうして、そこまで言ってくれるのです? 本当に天涯孤独になる予定なのですよ? 私だって、それでいいと思ってます。今井家のことで悩まされたくないから、一人のほうがいいし」

 えみは、震える声音で言い、俺から離れようとする。

 だが、俺は引くつもりはない。

「えみは、バカなことばかり言っている。人間一人では生きてはいけない。誰かがそばにいたほうがいい。父親に冷たくされたり、実家を離れた時の俺だってそう思ったから、人肌を求めたりもした。えみも違う?」

「……祥さんは、私が悪女だと思っているのですね? 春日教授が言っている悪女だと」

 えみは、引き止めよとした俺の腕を強引に解こうとした。

「思っていない」

「思っています。だから人肌など言うのです! 私は男の人なんて嫌いです!」

 えみは、声を荒げて言い、俺から逃れようと必死に抗った。

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