となりの石油王サマ
朝の光がまぶたをふるわせ、かぐわしいハチミツのような香りが鼻をふるわせ、私はゆっくりと寝返りを打つ。あー、自分ちのお布団、さいこー。
(ん?)
シングルベッドの上にいつも置いている白い大きなウサギのぬいぐるみは思いのほか硬かった。
「Ohayo, sweetheart」
「おまえはなんだ」
「ウサギです」
「出てけ!!」
私は、
ウサギとともにベッドにいた人物をげしっと蹴りだした。
「Sweetheart、朝食ができたのでおしらせに上がったのですが」
「おまえは誰かを朝ごはんに誘う時、ベッドに入りこむのか」
「あなたがとても可愛くてつい」
「ケーサツ呼ぶぞ」
「警察、とても優しいです。私の純愛を応援してくださいます。ほんの少しで」
「ワイロ!!」
半年前、
私の住む都内23区内のワンルームマンションの部屋のとなりに、
「石油王」が引っ越してきました -
中東のある国出身だと言う彼は、190センチメートルを超える長身で体格もよく、ココア色の肌をしていた。
小顔で切れ長の目はすみれ色、鼻がシュッと高く、サンゴ色の唇はたっぷりとしている。ゆるやかなパーマのかかった清潔感あふれる短い黒髪。パーフェクトなイケメンだ。年齢は20代前半で、世界的なセレブのファミリーを持つ。
ただし、ストーカー。
私は、すっかり日課となったとなりの家での朝食に舌鼓を打っていた。半熟目玉焼きはほうれん草ととろけるチーズの巣ごもり風、サトイモのほのぼの甘い煮付け、ザクロのジュース、麦ご飯、ワカメと白菜のお味噌汁、デザートには豆乳ヨーグルトとハチミツ。
好きな洋楽をかけながら食べる朝食は最高だ。イケメンの笑顔を見ながら食べるのも。
この食事はこのイケメンのお手製だ。朝からいたれりつくせり。このあと、洗い物をして着替えてメイクをし、会社へ向かうだけ。
だが、
「ほだされないぞ。ごはんくらいで」
「善意です」
「食事代はちゃんと受け取って。
あと、今夜は結婚相談所で出会ったひととデートなの。邪魔しないでね」
私がテーブルの向かい側の彼をにらんでも、彼はほのぼのと笑っているばかりだ。
「どうせまた失敗するのに」
「ぐっ」
「私にしておけば良いのに」
イケメンがニコニコしながら辛辣な言葉を吐く。私は、右こぶしをぐっと握る。
「私は、自分のパートナーは自分で決める!!」
「なら私にしましょう」
「私は普通の家庭を築きたいの!! 日本で、収入の安定した旦那さんと共働きしながら、子供は3人くらい育てたいの!!」
「私も収入が安定していますよ」
「あなたは弟としか思えない」
イケメンの笑顔が情けなく崩れたのを機に、私はささっと食事を終え、食器を手にキッチンへ向かう。
「洗いものならうちのスタッフが」
「そう言うの良い!! 自分でできることは自分でする!!
それにあなたに借りを作りたくない!!」
水音にかき消されそうな声が聞こえた。「可愛いひとだ」と。
(ん?)
シングルベッドの上にいつも置いている白い大きなウサギのぬいぐるみは思いのほか硬かった。
「Ohayo, sweetheart」
「おまえはなんだ」
「ウサギです」
「出てけ!!」
私は、
ウサギとともにベッドにいた人物をげしっと蹴りだした。
「Sweetheart、朝食ができたのでおしらせに上がったのですが」
「おまえは誰かを朝ごはんに誘う時、ベッドに入りこむのか」
「あなたがとても可愛くてつい」
「ケーサツ呼ぶぞ」
「警察、とても優しいです。私の純愛を応援してくださいます。ほんの少しで」
「ワイロ!!」
半年前、
私の住む都内23区内のワンルームマンションの部屋のとなりに、
「石油王」が引っ越してきました -
中東のある国出身だと言う彼は、190センチメートルを超える長身で体格もよく、ココア色の肌をしていた。
小顔で切れ長の目はすみれ色、鼻がシュッと高く、サンゴ色の唇はたっぷりとしている。ゆるやかなパーマのかかった清潔感あふれる短い黒髪。パーフェクトなイケメンだ。年齢は20代前半で、世界的なセレブのファミリーを持つ。
ただし、ストーカー。
私は、すっかり日課となったとなりの家での朝食に舌鼓を打っていた。半熟目玉焼きはほうれん草ととろけるチーズの巣ごもり風、サトイモのほのぼの甘い煮付け、ザクロのジュース、麦ご飯、ワカメと白菜のお味噌汁、デザートには豆乳ヨーグルトとハチミツ。
好きな洋楽をかけながら食べる朝食は最高だ。イケメンの笑顔を見ながら食べるのも。
この食事はこのイケメンのお手製だ。朝からいたれりつくせり。このあと、洗い物をして着替えてメイクをし、会社へ向かうだけ。
だが、
「ほだされないぞ。ごはんくらいで」
「善意です」
「食事代はちゃんと受け取って。
あと、今夜は結婚相談所で出会ったひととデートなの。邪魔しないでね」
私がテーブルの向かい側の彼をにらんでも、彼はほのぼのと笑っているばかりだ。
「どうせまた失敗するのに」
「ぐっ」
「私にしておけば良いのに」
イケメンがニコニコしながら辛辣な言葉を吐く。私は、右こぶしをぐっと握る。
「私は、自分のパートナーは自分で決める!!」
「なら私にしましょう」
「私は普通の家庭を築きたいの!! 日本で、収入の安定した旦那さんと共働きしながら、子供は3人くらい育てたいの!!」
「私も収入が安定していますよ」
「あなたは弟としか思えない」
イケメンの笑顔が情けなく崩れたのを機に、私はささっと食事を終え、食器を手にキッチンへ向かう。
「洗いものならうちのスタッフが」
「そう言うの良い!! 自分でできることは自分でする!!
それにあなたに借りを作りたくない!!」
水音にかき消されそうな声が聞こえた。「可愛いひとだ」と。