十五年の石化から目覚めた元王女は、夫と娘から溺愛される
ルークからの返事が来たのは、夏になってからだった。
なかなか返事が来ないのでやきもきしたり諦めたり、もしかしたら配達員が道中で襲われたのかもと思ったりしたので、無事に返事が来ただけでほっとできた。
その頃にはカミラのお腹は膨らんできており、妊婦用の腹部がゆったりとしたサマードレスを着ていた。
ルークの文字を見るのは、結婚の際にサインをしたとき以来だ。彼は字があまり上手でないようだし便箋の紙質がよくないのもあって字はカクカクしていた。
だがそこには、カミラの妊娠がとても嬉しいこと、無理をしないでほしいということが書かれていた。決して長い手紙ではなかったが、丁寧に綴られた文字を見ていると言いようもなく胸が温かくなった。
(本当に、この子のおかげで私たちはちゃんと向き合えそうだわ)
お腹を撫でながら、カミラは思う。
ルークと一緒に過ごした時間より、この屋敷で一人で過ごしている時間の方が長い。そしてもしカミラが妊娠しなければ、カミラはずっとひとりぼっちでいただろう。
この子が来てくれたから、カミラはルークとのつながりができた。
まだ生まれてもいない我が子に「しっかりして!」と叱られているようだが、きっとこの子はとても頼もしい性格なのだろう。
「大丈夫よ。お母様はちゃんと、お父様と仲よくなるわ」
お腹の子に呼びかけてから、カミラは窓辺の椅子に座って子守歌を口ずさんだ。
ずっと前に亡くなった母が、幼い頃のカミラのために歌ってくれた歌を。
秋になり、カミラのお腹は誰が見てもわかるくらい大きくなっていた。
この頃になってやっとパメラからの返事も届いたのだが、それは小説本かと思うほど分厚かった。
パメラは姉とルークの子ができたことに大喜びのようで、狂喜乱舞する内容がずらずらと何枚にもわたって書かれていた。
また彼女がアッシャール帝国で楽しく過ごしていることも記されていたので、カミラもほっとできた。パメラは後宮の妃たちの中では一番若いのだが、先輩妃たちを「あねさま」と呼び、かわいがられているという。つくづく、妹の処世術と人心掌握力の強さに舌を巻いてしまう。
そしてパメラの手紙に「名前は決めたのですか?」とあり、カミラははっとした。
(そうだわ。ルークに子どもの名前をつけてもらわないと)
ラプラディア王国では生まれる子どもの名前は夫主導、もしくは夫の実家で決められることが多い。ルークは親兄弟を全て亡くしているため、子どもの名付けをするのは彼の役目だ。
(それに私自身、ルークに名前をつけてもらいたいと思っているもの)
カミラには半分といえど血のつながった兄妹がいるが、ルークにはいない。年末に生まれるだろう我が子が、ルークにとって唯一の肉親になるのだ。
だからカミラは手紙で、「子どもの名前を決めてください」と書いた。ルークの性格だと「あなたが決めてください」と言うかもしれないが、ここは是非ルークの意見を聞きたい。
手紙の返事が来たのは、冬になってからだった。
大きなお腹を抱えたカミラは緊張する手で便箋を取り出し、そこに書かれている夫の文字を見てほっと安心できた。
ルークは、自分が名付けるなんて畏れ多いがとても誇らしいと述べていた。
そして。
「……アーネストと、ディアドラ」
便箋に書かれた男女一組の名前を、そっと指でなぞる。
男の子なら、アーネスト。
女の子なら、ディアドラ。
ルークが考えてくれた、我が子のための名前だ。
(とても素敵な響きだわ)
「アーネスト、ディアドラ」
カミラがお腹に向かって呼びかけると、少しだけ中で赤ん坊が動く気配がした。
この子も、父がつけてくれた名前を喜んでいるのかもしれない。
なかなか返事が来ないのでやきもきしたり諦めたり、もしかしたら配達員が道中で襲われたのかもと思ったりしたので、無事に返事が来ただけでほっとできた。
その頃にはカミラのお腹は膨らんできており、妊婦用の腹部がゆったりとしたサマードレスを着ていた。
ルークの文字を見るのは、結婚の際にサインをしたとき以来だ。彼は字があまり上手でないようだし便箋の紙質がよくないのもあって字はカクカクしていた。
だがそこには、カミラの妊娠がとても嬉しいこと、無理をしないでほしいということが書かれていた。決して長い手紙ではなかったが、丁寧に綴られた文字を見ていると言いようもなく胸が温かくなった。
(本当に、この子のおかげで私たちはちゃんと向き合えそうだわ)
お腹を撫でながら、カミラは思う。
ルークと一緒に過ごした時間より、この屋敷で一人で過ごしている時間の方が長い。そしてもしカミラが妊娠しなければ、カミラはずっとひとりぼっちでいただろう。
この子が来てくれたから、カミラはルークとのつながりができた。
まだ生まれてもいない我が子に「しっかりして!」と叱られているようだが、きっとこの子はとても頼もしい性格なのだろう。
「大丈夫よ。お母様はちゃんと、お父様と仲よくなるわ」
お腹の子に呼びかけてから、カミラは窓辺の椅子に座って子守歌を口ずさんだ。
ずっと前に亡くなった母が、幼い頃のカミラのために歌ってくれた歌を。
秋になり、カミラのお腹は誰が見てもわかるくらい大きくなっていた。
この頃になってやっとパメラからの返事も届いたのだが、それは小説本かと思うほど分厚かった。
パメラは姉とルークの子ができたことに大喜びのようで、狂喜乱舞する内容がずらずらと何枚にもわたって書かれていた。
また彼女がアッシャール帝国で楽しく過ごしていることも記されていたので、カミラもほっとできた。パメラは後宮の妃たちの中では一番若いのだが、先輩妃たちを「あねさま」と呼び、かわいがられているという。つくづく、妹の処世術と人心掌握力の強さに舌を巻いてしまう。
そしてパメラの手紙に「名前は決めたのですか?」とあり、カミラははっとした。
(そうだわ。ルークに子どもの名前をつけてもらわないと)
ラプラディア王国では生まれる子どもの名前は夫主導、もしくは夫の実家で決められることが多い。ルークは親兄弟を全て亡くしているため、子どもの名付けをするのは彼の役目だ。
(それに私自身、ルークに名前をつけてもらいたいと思っているもの)
カミラには半分といえど血のつながった兄妹がいるが、ルークにはいない。年末に生まれるだろう我が子が、ルークにとって唯一の肉親になるのだ。
だからカミラは手紙で、「子どもの名前を決めてください」と書いた。ルークの性格だと「あなたが決めてください」と言うかもしれないが、ここは是非ルークの意見を聞きたい。
手紙の返事が来たのは、冬になってからだった。
大きなお腹を抱えたカミラは緊張する手で便箋を取り出し、そこに書かれている夫の文字を見てほっと安心できた。
ルークは、自分が名付けるなんて畏れ多いがとても誇らしいと述べていた。
そして。
「……アーネストと、ディアドラ」
便箋に書かれた男女一組の名前を、そっと指でなぞる。
男の子なら、アーネスト。
女の子なら、ディアドラ。
ルークが考えてくれた、我が子のための名前だ。
(とても素敵な響きだわ)
「アーネスト、ディアドラ」
カミラがお腹に向かって呼びかけると、少しだけ中で赤ん坊が動く気配がした。
この子も、父がつけてくれた名前を喜んでいるのかもしれない。