十五年の石化から目覚めた元王女は、夫と娘から溺愛される
 連日降り続いていた雪がまるで奇跡のように途切れて青い空が王都を包み込んだ日、カミラは屋敷で出産した。
 通常の妊婦より少しだけ妊娠期間が長めでなかなか陣痛が来ないので医者たちはやきもきしていたが、お産自体はすんなりと進んだため皆安堵の息を吐いていた。

 生まれてきた子は、女の子だった。頭部に生えたふわふわの毛は夫と同じ濃いグレーで、その泣き声は庭にまで響くのではないかというほど大きい。

 娘が生まれて三日後、大事を取ってベッドで休んでいたカミラのもとに教会の女性神官がやってきた。かつてカミラが司祭だった頃に後輩だった彼女は娘の誕生を祝福し、「ディアドラ・ベレスフォード」と書かれた書類を大事に受け取ってくれた。

「ディアドラ。あなたの名前は、ディアドラよ」

 まだふにゃふにゃした体の娘を抱き上げてカミラが囁くと、ディアドラはにゃあ、のような声を上げた。

(ディアドラ……私とルークの、大切な娘)

 生まれた娘にディアドラと名付けたことを、カミラはすぐにルークに伝えた。正直まだペンを手に取ってきれいな字を書くのも苦しかったが、どうしても自分の手で書きたいと代筆を申し出るメイドに我がままを言った。

 その返事は、年明けに届いた。ルークは娘の誕生を喜び、自分が考えた名前をつけてくれたことに感謝していた。

 彼が王都に戻ってくるのは来年の頭になるそうだが、これから少し忙しくなるため手紙の返事を書けないだろうとのことだった。だがルークは妻と娘のために頑張る、と相変わらず少しカクついた力強い字で書いた。

『ディアドラに会える日を、楽しみにしています』

 ルークからの返事を、カミラはベビーベッドで眠るディアドラのもとに持っていく。

「ディアドラ、お父様があなたに会いたいって言っているわ」

 カミラが話しかけると、ディアドラはしょぼしょぼと瞬きして便箋を見上げた。
 先日目が開いてわかったのだが、ディアドラの目は青色だった。カミラの茶色でもルークのハシバミ色でもないが、青色の目は先代国王であるカミラの父と同じだから、隔世遺伝したのだろう。

 祖父である先代国王と同じ青色の目と、父と同じ濃いグレーの髪。誰が見ても、カミラとルークの娘だとわかる子だ。

「ディアドラ、ほら、この人がお父様よ」

 カミラはそう言って娘を抱っこし、子ども部屋の壁に飾っている肖像画を見せた。これは数少ない、ルークの姿が描かれたものだ。

 ルークは絵の題材になるのを嫌っていたようで、騎士に就任したときにも絵などを描かれるのを遠慮していた。だが今後のためにも一枚くらいは描いてもらえとパメラにせっつかれたらしく、渋々モデルになったのがこの絵らしい。

 ここに描かれているのは、まだ十六歳になったばかりの頃のルークだ。去年の秋に別れたときよりも幼い顔立ちをしているように思われるので、今の彼とは全く顔立ちが違うかもしれない。

 でもルークと会ったときにすぐに彼が父親だとわかってほしいので、カミラは夫の肖像画をディアドラの部屋に置いていた。

 肖像画の前に立つと、ディアドラが絵に向かって手を伸ばしてあうあうと声を上げた。まるで目の前にいる父に話しかけているかのようで、カミラの胸が温かくなる。

(ルーク。あと一年間、私がこの子をしっかり育てるわ)

 だからどうか、ルークも無事に帰ってきてほしい。
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