十五年の石化から目覚めた元王女は、夫と娘から溺愛される
 翌年、カミラはディアドラを連れて王城に向かった。

 ここに来るのも二年以上ぶりだが、懐かしいとは全く思わない。一応ここで生まれ育ったのだが、カミラにとって王城で過ごした幸せな思い出は母やパメラと一緒に過ごした時間で、その二人はもうここにはいない。
 カミラの故郷は司祭として過ごした修道院で、帰る場所は男爵家の屋敷だった。

 結婚により男爵夫人となったカミラだが、国王の妹であることに違いはない。
 カミラが抱っこするディアドラもまた国王の姪、先代国王の孫にあたるため、二人の護衛のために城から騎士たちが派遣された。

 その騎士たちの大半は仕事のためと硬い表情だったが、数名はこそっと近くに来てカミラに挨拶したり、ディアドラをあやしたりしてくれた。彼らはルークの仲間たちらしく、「お嬢様にお会いできて光栄です」と喜び、護衛のときにもそばにいてくれたのでカミラも安心できた。

 やはりジェラルドは晩餐の席に呼ぶことでディアドラの誕生日祝いとすると考えたようで、カミラはげんなりとしつつも背筋を伸ばして王城の廊下を歩いた。
 カミラがあからさまに嫌そうな顔をしたり猫背になったりして恥ずかしい思いをするのは、ルークやディアドラだ。夫や娘のためにも、カミラが妻として母として、強くありたい。

 王族のみが同席することを許される晩餐の間に入るのも、久しぶりだ。母が存命の頃からここに通されることはほとんどなかったから、最後にここで食事をしたのはもう二十年近く前のことになるだろう。

「来たか、ベレスフォード男爵夫人」

 久しぶりに会う兄は、相変わらず意地の悪そうな顔をしていた。隣に座る王妃は相変わらず何を考えているのかわからない笑みを浮かべており、一番愛想がいいのは今年四歳になった王太子だった。

 金髪に緑色の目を持つ彼はカミラとディアドラが来ると明らかに目を輝かせ、話しかけたい、もっとよく見たい、と言わんばかりに首を伸ばして傍らにいる侍従に窘められているのがかわいらしかった。

 カミラのことを名前ではなくて男爵夫人の名で呼んだジェラルドは、空いている席を雑に示した。

「そこに座れ。それから、ご息女の一歳の誕生日、おめでとう」
「……ありがとうございます、陛下」

 愛想のない言い方にもカミラは微笑みで応じ、抱っこしていたディアドラを子ども用の椅子に座らせたのだが。

「……ん? おまえの娘、珍しい目の色をしているな」

 いきなり興味を引かれたようで、ジェラルドが身を乗り出してきた。それまではカミラの胸に顔を寄せていたディアドラが正面を向いたため、顔立ちがよく見えたからだろう。

「青い目……? なるほど、父上譲りか」
「そのようです」
「ふうん。おまえの娘にしては、器量もよさそうだ。肝も据わっていると見える。いずれ、私の側近の子と縁組みさせてやってもよさそうだな」
「陛下のご提案に感謝いたします。ディアドラが成長しましたら、またご相談させてください」

 あからさまにディアドラに興味を向けてきたジェラルドに、カミラは淡々と応じる。

(ディアドラを政治の駒にすることだけは、絶対に防ぐわ)

 王家の姫は、政略結婚の材料になる。パメラがいい例だろう。
 現在兄夫婦には王太子しか子がいないため、いざとなったら姪であるディアドラを使う気のようで気分が悪い。国王の命令となったらたかが男爵夫妻のカミラたちでは太刀打ちできないが、限界まであがいてやる。

 晩餐会は、予想どおり微妙な空気で進んだ。幸いディアドラ用の離乳食がちゃんと用意されていたし乳幼児の扱いに慣れている使用人が手配されていたので、娘の食事には困らなかった。また王太子が「ぼくのいとこだね?」「よろしくね、ディアドラ!」と人なつっこく接してくれるので、ずっとぴりぴりしているわけではなかった。

(もしこの王太子殿下が今のお心のまま成長されたら、ディアドラのことも丁重に扱ってくださるかもしれないわ)

 正直兄の方は全く期待できないから、真っ直ぐなまま大人になった王太子がさっさと王位を継ぎ、ディアドラのよき理解者になってくることを願いたい。

 ジェラルドが言ったように、ディアドラは知らない大人たちばかりの場所であるのに泣いたりわめいたりせず、大人しくご飯を食べていた。
 それがますますジェラルドは気に入ったようで、「男児だったら、息子の側近にしてやったのにな」なんて笑いながら言っているのが鬱陶しかった。

 王妃の方はずっと笑顔だったが、何もしゃべらなかった。余計なことを言わないのはありがたいが、だからといってディアドラに誕生祝いの言葉を贈ったりすることもない。
 国内の高位貴族の令嬢だったとのことだが、正直カミラは兄以上に兄嫁のことも不気味で近寄りがたいと思っている。
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