十五年の石化から目覚めた元王女は、夫と娘から溺愛される
楽しくないお誘い
ディアドラと共に過ごす時間は、穏やかに過ぎていった。
年末に、ディアドラは一歳の誕生日を迎えた。その頃にはよたよたしながら歩けるようになり、積み木を積んだりボールを転ばして遊んだりできるようになった。
定期的に検診に来てくれる医師が言うにはディアドラは健康そのものらしく、既にカミラを「かーた」と呼べるようになっていた。
カミラはディアドラを抱っこしてルークの肖像画の前に立ち、「この人が『お父様』よ」と教えてきたので、カミラはルークの絵を見ると「とーた」と言えるようになった。
相変わらず兄夫婦はディアドラには無関心だったが、パメラからは大量の贈り物が届く。それに屋敷の者たちも皆小さなお姫様にメロメロで、ディアドラはたっぷりの愛情を注がれてすくすくと育っていた。
そして冬の終わりに、とうとうルークからの嬉しい知らせが届いた。
「旦那様がお戻りになるのですね!」
「ええ、春の頭に帰還予定よ」
カミラが言うと、ディアドラを抱っこするメイドは「まあ!」と喜んだ。
ルークは多忙な業務を順調にこなし、ついに来年帰ってくることになった。まだわからないものの成果も上々で、これにはさすがの兄国王もルークに褒美をやるのではないかとのことだった。
(やっとディアドラを、ルークに会わせてあげられるわ)
ディアドラが生まれて、一年。
ディアドラはやっと絵でない本物の父親に会えるし、ルークは手紙だけでしか知ることのできなかった娘と会うことができる。
爵位やら昇叙やらなんて、正直どうでもいい。
父と娘を会わせられるのが、カミラにとって何より嬉しかった。
「……あの、奥様。実はもう一通、手紙が」
メイドと一緒に喜ぶカミラに申し訳なさそうに言うのは、執事。
彼が差し出した手紙はルークが送ってきたものより上質で、その送り主名を見たカミラはげっと言いたくなった。
「これは、お兄様……」
「さすがにお嬢様がお生まれになって一年経ちますし、伯父として何もしないわけにはいかないのでしょう。お嬢様は傍系といえど王族ですし、一歳の祝いだけは義務でするべきだとお考えなのかと」
おそらく、執事の言うとおりだろう。
兄からの手紙の内容は要約すると、「姪の一歳の誕生日を祝ってやるから、城に来い」とのことだ。祝うといってもせいぜい晩餐会の末席に招かれる程度だろうが、断ると後が面倒なことになりそうだ。
(それに、ルークが帰ってくるよりも前だからちょうどいいかもしれないわ)
ジェラルドはルークのことを嫌っているようだから、ルークが昇叙されることを念頭に置くと兄からの印象はよくした方がいい。晩餐会に出席して兄の機嫌を損ねないようにすれば、後々にとってもいいことになるだろう。
(これも最低限の義務だと考えて、割り切らないとね)
カミラの心の内を悟ったのかディアドラがじっと見上げてきたので、カミラは兄からの手紙をぽいっとテーブルに放ってメイドから娘を受け取った。
「大丈夫よ、私のかわいいディア。お母様はこれからちょっと怖い人と会うけれど、お父様と再会するためなのだから頑張るわ」
そう言ってふにふにの頬にキスをすると、ディアドラは嬉しそうな笑い声を上げた。
……この子のためなら、カミラは何でもする。
何だって、やってみせる。
年末に、ディアドラは一歳の誕生日を迎えた。その頃にはよたよたしながら歩けるようになり、積み木を積んだりボールを転ばして遊んだりできるようになった。
定期的に検診に来てくれる医師が言うにはディアドラは健康そのものらしく、既にカミラを「かーた」と呼べるようになっていた。
カミラはディアドラを抱っこしてルークの肖像画の前に立ち、「この人が『お父様』よ」と教えてきたので、カミラはルークの絵を見ると「とーた」と言えるようになった。
相変わらず兄夫婦はディアドラには無関心だったが、パメラからは大量の贈り物が届く。それに屋敷の者たちも皆小さなお姫様にメロメロで、ディアドラはたっぷりの愛情を注がれてすくすくと育っていた。
そして冬の終わりに、とうとうルークからの嬉しい知らせが届いた。
「旦那様がお戻りになるのですね!」
「ええ、春の頭に帰還予定よ」
カミラが言うと、ディアドラを抱っこするメイドは「まあ!」と喜んだ。
ルークは多忙な業務を順調にこなし、ついに来年帰ってくることになった。まだわからないものの成果も上々で、これにはさすがの兄国王もルークに褒美をやるのではないかとのことだった。
(やっとディアドラを、ルークに会わせてあげられるわ)
ディアドラが生まれて、一年。
ディアドラはやっと絵でない本物の父親に会えるし、ルークは手紙だけでしか知ることのできなかった娘と会うことができる。
爵位やら昇叙やらなんて、正直どうでもいい。
父と娘を会わせられるのが、カミラにとって何より嬉しかった。
「……あの、奥様。実はもう一通、手紙が」
メイドと一緒に喜ぶカミラに申し訳なさそうに言うのは、執事。
彼が差し出した手紙はルークが送ってきたものより上質で、その送り主名を見たカミラはげっと言いたくなった。
「これは、お兄様……」
「さすがにお嬢様がお生まれになって一年経ちますし、伯父として何もしないわけにはいかないのでしょう。お嬢様は傍系といえど王族ですし、一歳の祝いだけは義務でするべきだとお考えなのかと」
おそらく、執事の言うとおりだろう。
兄からの手紙の内容は要約すると、「姪の一歳の誕生日を祝ってやるから、城に来い」とのことだ。祝うといってもせいぜい晩餐会の末席に招かれる程度だろうが、断ると後が面倒なことになりそうだ。
(それに、ルークが帰ってくるよりも前だからちょうどいいかもしれないわ)
ジェラルドはルークのことを嫌っているようだから、ルークが昇叙されることを念頭に置くと兄からの印象はよくした方がいい。晩餐会に出席して兄の機嫌を損ねないようにすれば、後々にとってもいいことになるだろう。
(これも最低限の義務だと考えて、割り切らないとね)
カミラの心の内を悟ったのかディアドラがじっと見上げてきたので、カミラは兄からの手紙をぽいっとテーブルに放ってメイドから娘を受け取った。
「大丈夫よ、私のかわいいディア。お母様はこれからちょっと怖い人と会うけれど、お父様と再会するためなのだから頑張るわ」
そう言ってふにふにの頬にキスをすると、ディアドラは嬉しそうな笑い声を上げた。
……この子のためなら、カミラは何でもする。
何だって、やってみせる。