十五年の石化から目覚めた元王女は、夫と娘から溺愛される
「天国って、こんなにきれいな場所なのね」
ふふっと笑ってしばらくの間窓の外を眺めてから、そういえばここは天国のどこなのだろう、と思った。
見たところ、この寝室には廊下に続くらしいドアがある。この先には、別の天国の住人が暮らしているのかもしれない。
「それなら、挨拶をしないと」
軽い足取りでカミラはドアに向かったが、鍵がかかっている。天国には悪い人はいないはずなのに、戸締まりはしっかりしているようだ。
だが鍵は内側から外せたのであっさり開き、カミラは廊下に出た。
廊下にはやはり他の部屋に続くらしいドアがあったのでいくつかノックしたが、返事はなかった。他の住人は、あの草原に出てひなたぼっこをしているのだろうか。
「それなら、ご一緒したいわ」
るん、と軽い足取りで階段の方に向かったカミラはふと、階下から誰かが上がってくる音を耳にした。もしかすると、天国のお隣さんなのかもしれない。
どんな人だろうか、と期待に胸を膨らませるカミラだが、はたして階段を上がってきたのは黒灰色の髪を持つ美しい少女だった。
年齢は十五、六歳くらいだろうか。豊かな髪を背中に流しており、目と同じ青色のドレスを着ている。同性のカミラが見てもうっとりとするような美少女だが、享年二十六歳のカミラはまだしもこんなに若い人まで召されてしまうなんて、なんて残酷な世の中なのだろうかと思ってしまう。
天国の隣人の少女も、カミラの存在に気づいたようだ。踊り場のところまで来た彼女は上階に立つカミラを見て、ぽかんとしている。
「あの、こんにちは、お隣さん。私、カミラ・ベレスフォードと言います」
おそらく自分の方が新人死者だろうから挨拶をすると、美少女ははっと口元を手で覆ってしまった。
「うそ、そんな……」
「あの……?」
「……お母様。お母様、お目覚めになったのですね!」
美少女は叫ぶように言うと階段を駆け上がり、飛びつく勢いでカミラに抱きついてきた。思わずのけぞりそうになり、カミラはなんとか両足で踏ん張る。素足でなくてハイヒールを履いていたら、踏ん張れずに美少女と一緒に倒れていたかもしれない。
「きゃっ!?」
「ああっ、お母様が立って、動いて、しゃべっていらっしゃる……! ずっとずっと、お待ちしていました……!」
「あ、あの、お隣さん?」
何のことかわからなくてカミラが美少女の背中を優しく叩くと、彼女ははっとした様子で体を離し真っ赤になった目で見上げてきた。
「お母様、混乱されているのですね。……それも仕方のないことでしょう」
「……ええと?」
「お母様。私、ディアドラです。あなたの娘のディアドラ・ベレスフォードです」
美少女は胸に手を当ててそう言い、ふにゃりと泣き笑いを浮かべた。
「お母様は石化して、十五年間眠ってらっしゃいました。……お会いできて嬉しいです、お母様」
「……はい?」
カミラは、ディアドラと名乗った美少女を凝視する。
……どうやらまだ、自分は天国には行けていないようだ。
ふふっと笑ってしばらくの間窓の外を眺めてから、そういえばここは天国のどこなのだろう、と思った。
見たところ、この寝室には廊下に続くらしいドアがある。この先には、別の天国の住人が暮らしているのかもしれない。
「それなら、挨拶をしないと」
軽い足取りでカミラはドアに向かったが、鍵がかかっている。天国には悪い人はいないはずなのに、戸締まりはしっかりしているようだ。
だが鍵は内側から外せたのであっさり開き、カミラは廊下に出た。
廊下にはやはり他の部屋に続くらしいドアがあったのでいくつかノックしたが、返事はなかった。他の住人は、あの草原に出てひなたぼっこをしているのだろうか。
「それなら、ご一緒したいわ」
るん、と軽い足取りで階段の方に向かったカミラはふと、階下から誰かが上がってくる音を耳にした。もしかすると、天国のお隣さんなのかもしれない。
どんな人だろうか、と期待に胸を膨らませるカミラだが、はたして階段を上がってきたのは黒灰色の髪を持つ美しい少女だった。
年齢は十五、六歳くらいだろうか。豊かな髪を背中に流しており、目と同じ青色のドレスを着ている。同性のカミラが見てもうっとりとするような美少女だが、享年二十六歳のカミラはまだしもこんなに若い人まで召されてしまうなんて、なんて残酷な世の中なのだろうかと思ってしまう。
天国の隣人の少女も、カミラの存在に気づいたようだ。踊り場のところまで来た彼女は上階に立つカミラを見て、ぽかんとしている。
「あの、こんにちは、お隣さん。私、カミラ・ベレスフォードと言います」
おそらく自分の方が新人死者だろうから挨拶をすると、美少女ははっと口元を手で覆ってしまった。
「うそ、そんな……」
「あの……?」
「……お母様。お母様、お目覚めになったのですね!」
美少女は叫ぶように言うと階段を駆け上がり、飛びつく勢いでカミラに抱きついてきた。思わずのけぞりそうになり、カミラはなんとか両足で踏ん張る。素足でなくてハイヒールを履いていたら、踏ん張れずに美少女と一緒に倒れていたかもしれない。
「きゃっ!?」
「ああっ、お母様が立って、動いて、しゃべっていらっしゃる……! ずっとずっと、お待ちしていました……!」
「あ、あの、お隣さん?」
何のことかわからなくてカミラが美少女の背中を優しく叩くと、彼女ははっとした様子で体を離し真っ赤になった目で見上げてきた。
「お母様、混乱されているのですね。……それも仕方のないことでしょう」
「……ええと?」
「お母様。私、ディアドラです。あなたの娘のディアドラ・ベレスフォードです」
美少女は胸に手を当ててそう言い、ふにゃりと泣き笑いを浮かべた。
「お母様は石化して、十五年間眠ってらっしゃいました。……お会いできて嬉しいです、お母様」
「……はい?」
カミラは、ディアドラと名乗った美少女を凝視する。
……どうやらまだ、自分は天国には行けていないようだ。