十五年の石化から目覚めた元王女は、夫と娘から溺愛される
「ええ。……まずはお礼を言わせて。ルーク、十五年間ディアドラのことを守り育ててくれて、本当にありがとう。あの子があんなに素敵な女性になったのは、あなたのおかげよ」
「……そんな、お礼を言いたいのは私の方です」

 ルークはかぶりを振り、カミラをベッドにそっと座らせてから自分もその隣に腰を下ろした。
 先ほど抱き合ったときから思っていたが十五年間で彼はまだ背が伸びていたようで、並んで座ると見上げなければならないほどの位置に彼の頭があった。

「カミラ様。あなたは私の子を産み育ててくださった。私は……あんなにふがいない夫だったというのに」
「ふがいない……だったかしら?」

 カミラにとっては二年前のことなので新婚の頃を思い出しながら言うと、ルークは唇を引き結んでうなずいた。

「あの頃の私は若かっただなんて、言い訳にはならないとはわかっています。私は、あなたのことを大切にしようと思っていました。ですが何をしても空回りばかりで、あなたに悲しそうな顔をさせてばかりでした」
「えっ、待って。それは私の方でしょう」

 悔恨に浸るルークの手を握り、カミラは急いで言う。

「私の方こそ……年上なのに全然頼りにならなくて、ルークにいらない苦労ばかり押しつけていたわ。パメラと結婚していれば、あなたはもっと幸せになれたはずなのに、って」
「……なぜそこにパメラ様が出てくるのですか?」

 心底不思議そうに、ルークは言う。

「パメラ様とは、何もありません。……今はもちろん、二十年近く前に婚約がまとまったときからです」
「……好き、ではなかったの?」
「少なくとも、恋愛感情を抱いたことはありません」

 ルークはそう言い、自分の手を握るカミラの手を愛おしげに撫でた。

「パメラ様もそう言っていたでしょうが、私たちはよき友人でした。互いに恋愛感情はなくとも、結婚してもまあうまくやっていけるのではないか、という程度でした。実際、パメラ様といると気が楽でしたからね」
「……」
「そもそも、私はずっとあなたのことが好きだったのですから」
「ずっと?」

 その言葉の意味をはかりかねてカミラが繰り返すと、ルークは少し気まずそうに視線を逸らした。
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