恋するわたしはただいま若様護衛中!
第六章 若様の嫉妬心
夏休みが明けて、久しぶりの登校日。
私は少し緊張しながら自分の教室に入っていった。
すると、すでに伊吹が席に座っていて、数人の男子と会話している。
「おはよ、紅葉」
「お、おはよ……!」
笑顔の伊吹は今日も眩しくて、目を閉じたくなるほどに尊い。
ドキドキの余韻に浸りながら自分の席に座ると、沙知がやってきた。
「おはよー!」
「おはよ! 課題、一緒にやってくれてありがとう」
「いいよ。一緒にできて楽しかったし」
言いながら、沙知は私の肩をトンと叩いてウインクする。
頼もしい沙知と、そして以前よりも少し距離が縮まった伊吹もいる。
大切な人たちと楽しい二学期を始められると思うと、私もワクワクしてきた。
程なくしてチャイムが鳴ると、担任の高田先生が教室に入ってくる。
メガネをかけた若い男性の先生で、口数は少なく真面目な性格だ。
「朝礼をはじめる前に、このクラスに新しい仲間が増えます」
「!!」
「入ってきていいよ」
高田先生の一声に、クラス全員が顔を上げて興味津々な空気となった。
私もソワソワしながら、その編入生が教室に入ってくるのを待つ。
教室のドアがガラッと開いて、籐黄学園の制服を着た編入生が姿を現した。
瞬間、私は驚きすぎて息を止めた。
青髪を首裏で一つに束ねて、キリッと凛々しい目元。
白の学ランは首元がゆるゆるで、一見不良を思わせる風貌。
間違いなく、夏祭りで出会った“富岡倫太郎”くんだった。
斜め前の席に座る伊吹に視線を向けると、同じく驚いているような横顔が見える。
「じゃあ簡単に自己紹介してもらおうかな」
「……はい」
高田先生の指示に対して、素直に返事をした倫太郎くんが黒板の前に姿勢よく立つ。
教室全体を見渡すと、余裕そうな表情で自己紹介をはじめた。
「富岡倫太郎。昔はこの辺に住んでいて、最近戻ってきました。特技はサッカー。よろしくお願いします」
あっさりとした自己紹介を終えて、倫太郎くんが一礼する。
教室には拍手が沸き起こり、私も戸惑いながら拍手を送った。
すると近くの席の女子が、こそっと私に話しかけてくる。
「めちゃくちゃかっこいい編入生だね」
「え? あ、はは……だねー」
「不良そうなのに敬語使ってるのが好印象! あとで話しかけてみよーっと」
早速、女子の心を掴んだ倫太郎くんは、高田先生の指示で廊下側の後ろの席に座った。
みんなの視線が集まる中、倫太郎くんがふと顔を上げて私と目を合わせる。
「っ!!」
まるで敵を威嚇するような目つきに、私は思わず視線を逸らした。
感じの悪い態度をとってしまったと反省はしつつも、夏祭りの件があるから正直近寄りがたい。
でも、同じ忍者の末裔だから色々話したいこともあるし。
すぐには難しいかもしれないけれど、倫太郎くんのことを知っていきたい。
「今日の日直は――上田さん」
「は、はい!」
高田先生に名前を呼ばれた私は、慌てすぎて大きな声で返事をする。
何も事情を知らない高田先生は、日直の私にとんでもないことをお願いしてきた。
「これから、富岡くんに校内を案内してあげてください」
「え⁉︎」
「先生はホームルームがあるので。富岡くんもわからないことは上田さんに聞いてくださいね」
「……はい」
倫太郎くんは何も気にする様子なく、返事をしていた。
先生は知らないから仕方ないけれど、私は倫太郎くんに敵認定されているんです。
けれど役目は果たさないという責任感から、私はすっと立ち上がった。
クラスメイトの視線を感じながら、倫太郎くんに声をかける。
「……あ、案内、します……」
「……」
無言の倫太郎くんも、多分私なんかの案内なんて不要だと思っているに違いない。
倫太郎くんは静かに教室を出ていくから、その後を追おうと教室を出る。
出発する直前、私が教室の中に視線を向けると、伊吹がこちらを見ていた。
その視線はとても心配しているようで、私の胸がざわついた。
*
私と倫太郎くんは、静かな廊下を並んで歩く。
他のクラスも始業式前のホームルームが行われているから、廊下を歩いている生徒は私たちだけだった。
「……ここが、二年生のお手洗い。その先に科目教室が――」
「おい紅葉」
「ひぃ!」
案内の途中で突然呼び捨てにされた私は、思わず肩をびくつかせた。
恐る恐る視線を上げると、倫太郎くんは不適な笑みを浮かべて腕を組んでいる。
「な、なんで私の名前……」
「伊吹がそう呼んでいただろ」
なるほど。夏祭りの時に私の名前を覚えたらしい。
「俺が編入してきて驚いたか?」
「う、うん。……もしかして、夏祭りの時にはこの学園にくることわかってたの?」
「ああ。紅葉も同じ学校だったんだな……」
私のことを鬱陶しそうに睨む倫太郎くんに、身の危険を感じた。
あの時のバトルの続きでもしようかと言われたら、多分逃げることしかできない。
そんな私の思いが読まれたのか、倫太郎くんはため息をついて首根をかいた。