恋するわたしはただいま若様護衛中!


 伊吹がもう一度、倫太郎とサッカーしたいという気持ちになってくれたら――。
 また二人で仲良くサッカーができるはず!
 我ながら良いきっかけ作りだと思って、善は急げの気持ちで私は挙手をした。

「あの! 男子サッカーに、富岡くんと二之宮くんを推薦しますっ」
「推薦ですか。ちなみに理由は?」

 斜め前の席に座っていた伊吹の振り向く様子が、視界の隅に見える。
 高田先生の質問に私は自信を持って答えた。

「富岡くんは、編入日の自己紹介でサッカーが特技だと話していました。二之宮くんは、どんな球技もできますが、特にサッカーが得意だと思いました」
「……では、本人たちに聞いてみましょうか」

 高田先生は伊吹と倫太郎に視線を向けた。
 二人が承諾してくれなかったら、私の仲直り計画は終了してしまうのだけれど……。
 すると、先に返事をしたのは倫太郎だった。

「俺はサッカー希望だったんで、大丈夫です」
「ありがとうございます。二之宮くんはどうですか?」

 倫太郎の参加種目がサッカー確定となって、あとは伊吹の返答を残すのみ。

「……サッカーを希望していたので、上田さんの推薦を受けます」
「そうですか。では書記さん、サッカーのところに二人の名前をお願いします」

 こうして球技大会のサッカーメンバーとして、伊吹と倫太郎の名前が黒板に記載された。
 二人の名前が並んでいるだけで、なんだか嬉しい気持ちになる。
 すると斜め前の席に座る伊吹が、そっと振り向いてこそっと話しかけてくる。

「紅葉、推薦してくれてありがとう」
「え?」
「倫太郎とサッカーできるようにしてくれたんだよね?」
「!!」

 私のお節介な計画に気づいていても、伊吹は迷惑がらずに受け入れてくれた。
 伊吹も、もう一度倫太郎とサッカーできるのを楽しみにしていてくれてるのかな?

「伊吹と倫太郎の連携プレー、楽しみにしてるね」
「はは、どうかな。多分今の俺と倫太郎は、サッカー以外の問題も生まれそうだから……」
「……サッカー以外の問題?」
「ううん。紅葉は気にしなくていいよ」

 言いながら、伊吹は私との会話を終えて黒板に視線を向けた。
 せっかく一緒にサッカーできる機会ができたというのに、サッカー以外の問題が発生しているの?
 一体どんな問題なのか見当もつかない私は、不安だけが募っていった。



「倫太郎くーん!」

 終礼が終わったあと、倫太郎を呼ぶ可愛らしい声と共に他クラスの女子生徒が数名、倫太郎を囲った。

「倫太郎くん球技大会何することになったのー?」
「……サッカー」
「えー得意って言ってたもんね! 絶対応援するから!」
「それより、自分のクラス応援したら?」

 可愛い女子たちに囲まれていても、あまり動じず塩対応する倫太郎。
 私はその光景を眺めながら、今回の球技大会は凄いことになるかもしれないと予想した。
 若様と呼ばれる伊吹と、イケメン編入生の倫太郎。
 その二人が揃ったサッカー試合となれば、校内の女子たちが一目見ようと集まるはず。
 球技大会の大目玉となり、おそらく女子の声援が過去一になるのでは?
 そんなことを考えていると、他クラスの女子たちに囲まれた倫太郎の元に近づく一人の女子。
 伊吹に好意を寄せているはずの雛菊さんが、倫太郎に話しかけていた。

「倫太郎くん、サッカー頑張ってね」
「え? ああ、そのつもりだけど」
「私、倫太郎くんのことずっと応援してるから」

 満足げに微笑んだ雛菊さんは、それだけ伝えて教室を出ていった。
 私の中で疑問が残る。夏祭りまでは、雛菊さんは伊吹に好意があったはず。
 なのに倫太郎を応援するということは、もしかして雛菊さんの好意が伊吹から倫太郎へ移った?
 そこで点と点が線になって、私は雷に打たれたような衝撃を受ける。

「もしかして……」

 伊吹が言っていた“サッカー以外の問題”とは、雛菊さんを巡った恋のバトルでは⁉︎
 そう考えると納得できて、一人オロオロしてしまった。
 倫太郎に気持ちが動いている雛菊さんを、伊吹が取り戻したいと思っている。
 だとしたら、一緒にサッカーしたところで恋のライバル同士の二人の関係が元通りになることは――ない⁉︎
 私が頭を抱えていると、帰り支度を終えた伊吹に声をかけられた。

「頭痛?」
「え! あ、何でもない、大丈夫だよ」
「そう……、気になる? 倫太郎のこと」

 伊吹が不安げに問いかけてきて、私は首を傾げた。

「な、なんで?」
「……紅葉が、倫太郎のこと見てたから」
「あ、それは編入して間もないのに、モテモテだなぁって思って見てただけだよ」

 正直な気持ちを伝えると、伊吹は安堵したような表情を浮かべる。

「良かった……」
「え……⁉︎」
「ううん、なんでもないよ。それより、今日一緒に帰らない?」

 伊吹のお誘いに、私の心臓が反応してドキドキと音を奏でる。
 私は伊吹の公認護衛だから、そういう意味で誘ってくれているのはわかっている。
 それでも、伊吹と一緒に帰れるのは嬉しい。

「うん!」

 これから部活動を控える沙知に一声かけて、私は伊吹と教室を出た。
 浮かれて護衛任務を怠らないように、周囲の危険にも気を配りながら門前までやってきた。


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