2度目の初恋はセレナーデのように
〇演奏会の会場・席から見ている状態
暗くなった会場に開演のブザーが鳴り響く。
舞台の上にはグランドピアノ1台と数脚のイスがあり、舞台上だけにスポットライトが当てられる。
司会者『お待たせいたしました。【第46回室内演奏会】を始めます』
その後始まる演奏会の様子を描く。
【スポットライトを浴びて楽しそうにピアノを演奏する男子生徒】
【ヴァイオリンを意のままに操り奏でていくドレス姿の女子生徒】
【大きなチェロを巧みに引きこなす小柄の女子生徒】
歌音(すごい……)
その音圧に圧倒される歌音。
楽しそうに演奏する奏者の顔や、会場の雰囲気、選曲の多様さなど、すべてに感動している。
歌音(みんな楽しそう。本当に楽しんでいる顔だ)
音大の生徒というだけあって、皆演奏は上手だけれど、それよりも奏者の顔が皆生き生きしているのに目が向いてしまう。
歌音(……小さいころの自分を見ているみたい)
作曲を始めたことの歌音も、楽しくて仕方がないという顔をしていたのを思い出し、懐かしい気持ちに。
歌音(……いいなぁ)
小さなころは作曲が楽しすぎてご飯を食べるのすら忘れて、全力で楽しんでいた。
その時の気持ちを思い出し、心が震える。
無意識に手を胸の前でぎゅっとして高揚した様子の歌音。
心臓がドキドキと早くなり、自分もやりたくなってきて仕方がない。
そんな風に思っていると、あっという間に最後の曲になり、陽暁が登壇してくる。
ピアノの鍵盤に指を置くのが見えて、曲がはじまるのを待つ。
指が鍵盤に沈んだと思った次の瞬間。
歌音(――っ!!)
歌音は陽暁の奏でる音(リストの『ラ・カンパネラ』)に誘われ、鳴り響く鐘の音が聞こえたがした。
(※カンパネラの意味=鐘)
会場の空気が変わり、すべての視線が集まっていく。
滑らかに鍵盤に指を滑らせていく陽暁は圧倒的な存在感をもっていた。
歌音(聴くだけじゃない。目でも楽しめて、響いてくる圧で肌がしびれる感触もある……!)
音楽を聞いているのに、五感全てを刺激される。
思わず足を止めてしまうような
脳が揺らされるような
心が躍るような
そんな魔力が、陽暁の演奏にはあった。
歌音(……やっぱり、すごいなぁ)
歌音の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
歌音(そうだった。私は陽くんのこういう演奏が好きで、作曲を始めたんだ)
歌音(陽くんを見ていると音があふれてきて……。陽くんを、大切な人たちを表す曲を形にしたくて……)
歌音(……ああそうか。私の『好き』は、陽くんから始まっていたんだ)
いつの間にか忘れていた作曲を始めたきっかけを思い出す歌音。
その間も演奏は進み、ドキドキと鼓動を刺激する。
歌音「……好きに正直に、か」
誰かに「好き」を笑われたから。
お前にはムリだと言われたから。
そんなことで好きという気持ちを隠してしまったら、それこそ諦めてしまっているようなものだ。
歌音(……そんなの、私らしくないよね。私は諦めだけは悪いんだから)
だから……
歌音(……自分の『好き』を曲にしよう。誰に何をいわれても)
覚悟を決めた顔をした歌音。
そして演奏が終わり、拍手喝さいが鳴り響いた。