【完結】年の差十五の旦那様Ⅲ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷な辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~
 だから、俺はふっと口元を緩めて、シェリルの手を握り返す。少しだけ驚いたように、彼女の肩が跳ねた。

「忘れるわけが、ない」

 口から自然とそんな言葉が零れた。シェリルが、顔を上げる。……赤くなった目元と、頬を伝う涙。……彼女も、不安なのだろう。

「むしろ、簡単に犠牲になんてしない。……土も、シェリルも。どちらもを助かる方法を、必ず見つける」
「……旦那様」
「だから、そんな弱気なことを言わないでくれ」

 弱気なのは、俺のほうなのに。

 まるで、シェリルのほうが弱気なように言ってしまった。

 後悔するが、言ってしまったことは取り消せない。誤魔化すように視線を逸らせば、シェリルが笑ったのがわかった。

「……そうですね」

 しばらくして、彼女がそう言う。その声は、少しだけ明るい。

「私も、頑張って生きなくちゃ」

 空いている手を口元に当てて、彼女が笑う。

「それに、もしも旦那様を置いて死んでしまったら……後悔しても、し足りない気がするのです」
「……シェリル」
「私、旦那様と長生きするんです」

 シェリルがはっきりとそんな言葉を口にした。

 ……俺のほうが先に死ぬ。それは嫌というほどわかっている。でも、今はそれを口にするときじゃない。

「……あぁ」

 だから、俺はすべての気持ちを呑み込んで、そう返事をするのが精いっぱいだった。

「いろいろと、頑張りますから」

 ふっと緩めた口元が、やたらと愛らしい。……そう思いつつ、俺はシェリルの肩を撫でた。

 まだ少し震えている肩が、やたらと小さく感じられる。

(絶対に、守ると決めたんだ)

 アネットからも、なにからも。俺は、シェリルを守る。

 それが、きっと唯一俺に出来るシェリルへの愛情表現なのだ。……俺は、不器用らしいから。
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