【完結】年の差十五の旦那様Ⅲ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷な辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~
「……妬ましいわ」

 それは、心の底からの言葉のようだった。

「あなたも、ギルバートも。みんな妬ましいわ。……だって、私にないものを持っている」

 彼女が持つカップが、震えていた。

「私がどう足掻いても手に入れられなかったものを、簡単に手に入れている。……本当、妬ましい」

 顔を上げたアネット様の目には、憎しみや悪意が宿っているようで。……私の背中が、ぶるりと震えた。

「私はなにも持っていなかった。……なのに、あなたやギルバートは何もかもを持っていて。……本当、人生ってずるいわ」

 ゆるゆると首を横に振られたアネット様は、それだけを言って立ち上がられた。

 咄嗟に、私は彼女のほうに近づく。……彼女の言葉が、まるで悲鳴のように聞こえたから。

「アネット様。少し、私と雑談でもしませんか?」

 多分、それはなんてことない誘いだった。

 ただ、彼女の心にはびこる悪意を、どうにかして取り除きたい。その一心だったのかもしれない。

 彼女にそっと手を伸ばす。……アネット様は、その手を振り払った。

「冗談言わないで! あなたには私の気持ちなんて、これっぽっちもわからないわ。……ギルバートのことも、あなたのことも、見ていると惨めになるのよ!」
「アネット様!」

 アネット様が、それだけを叫ばれると部屋を乱暴な足取りで出ていかれた。

 彼女を追いかけようとする。でも、不意に足元がふらついて。

「奥様!」

 サイラスの、悲鳴のような声が聞こえた。

(頭が、ふわふわとするわ……)

 そう思いつつ、私はアネット様に視線を向けた。……彼女は、ただ戸惑ったような目をしていらっしゃった。
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