【完結】年の差十五の旦那様Ⅲ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷な辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~
「私はなにも持っていないの。夫とは離縁した。子供もいない。……実家からは勘当されているのよ」
「それは、自分自身の行いが原因だろう」

 アネット様のお言葉に、旦那様がそう口を挟まれる。

「そうね。ギルバートの言うことは最もだわ。……それに、あなたは嬉しいのでしょう?」
「なにがだ」
「大嫌いな私が、こうして不幸のどん底にいることが。……落ちぶれたことが、あなたは嬉しい。違う?」

 挑発的な笑みを浮かべたアネット様が、そうおっしゃった。

 旦那様は、なにも返答をされない。沈黙は肯定と受け取ったのか、アネット様がふんと鼻を鳴らされた。

「いいわよね。あなたは年下の小娘を捕まえて、高い地位だってある。……あーあ、私、あのときあなたを捨てなかったらよかったわ」

 やれやれとばかりのそのお言葉は、間違いなく挑発だった。

 旦那様は、なにも返されない。多分、出来る限り私とアネット様の邪魔にならないようにとされているのだ。

 私が、そうお願いしたから。

「アネット様。……私、旦那様のことが好きです」

 彼女のことをしっかりと見つめて、私はそう告げる。アネット様は、虚を突かれたように目をぱちぱちと瞬かせていた。

「お優しくて、こんな私のことも大切にしてくださる。愛してくださる。……そんなこのお方が、好きです」

 ちょっと恥ずかしいけれど、言わなくちゃ。

 その一心で、言葉を紡いでいく。アネット様は、意味が分からないとばかりに怪訝そうな表情を浮かべられている。

「私の好きな旦那様は、少なくとも人が落ちぶれていて喜ぶようなお人では、ありません」
「……あなた、なにを言っているの?」
「たとえ大嫌いなお人だったとしても、心の奥底では心配している。それが、旦那様です」

 本心だった。このお方は、私のことを心が広いと思っているようだけれど。

 ……実際、心が広いのは彼のほうだ。私は、イライジャ様を許せなかった。お父様を許せなかった。そんな私が、心が広いわけがない。
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