アステル! ~星成士たちとキラメキの祝祭~

5 お祭りはおわらない

 次の日。
 登校すると、学校まるごとが、『セルヴァン=ズヴィズダーは、わたしたちと同じクラス』という設定に書き換わっていた。
 みんながみんな、セルヴァン会長は、燐くんといっしょの日に転校してきたと思っている。
 あれからもう、数日はたってるのに。
 しかも、セルヴァン会長の席は、わたしの後ろ。
 すべてが、セルヴァン会長の記憶生成術の通りになっている。
 こんなすごい星成術が使えるなんて、やっぱり財団の会長をやっているだけはあるってことか。
 休み時間。
 わたしの前の席の柚希が、そわそわしながら振り向いてきた。
「ねえねえ、陽菜~! セルヴァンくんってさ、アイドルとかモデルとかやってないのかな? やってるんだったら、めっちゃ推しちゃうんだけどな~!」
 テンション抑えめではありつつも、目を輝かせながら両手をあごに添えている、柚希。
 ほんとうに、イケメンずきなんだからなー。
「ねえねえ、陽菜はもうセルヴァンくんとしゃべった? 佐々波くんとは、もうけっこう仲良しみたいだけどさあ」
「えーっと」
 しゃべるもなにも、六年ずっといっしょにいるから、しゃべりすぎてウンザリしているくらいなんだけど。
 柚希にバレないよう、そっとセルヴァン会長を横目に見る。
 わたしの視線に気づいたのか、会長がきょとんとした顔をした。
「歌仙くん。どうしたの」
 春の陽気のような、ふんわりとした笑顔で応えるセルヴァン会長。
 きらきらした太陽を見あげるような瞳で、わたしを見つめ返してくる。
 そんなセルヴァン会長に、柚希は「ほわあ~っ」と息をもらした。
「セルヴァンくんって……王子さまみたい!」
「ぼくが? どちらかというと、アステルを守っている歌仙くんのほうが、王子さまにふさわしいかと――」
「ちょ! 何いってるのーセルヴァンくーん」
 あわてて、会長の口をふさぐ、わたし。
 会長はわたしに口をふさがれながらも、うれしそうに「ふふ」と笑っている。
 さいわい柚希には聞こえていなかったみたいだけど、これからも安心はできない。
 セルヴァン会長の爆弾発言癖は、ちょっとやそっとじゃ治らないみたい。
「陽菜~! このクラス、顔面偏差値やばいよね♡ もう、一か月後に向けて、わくわくが止まらない!」
「一か月後? 何かあったっけ」
 わたしが首を傾げると、柚希は衝撃を受けたように、目をぐいっとむき出しにした。
「陽菜ってば、世話が焼けるなー! うちの学校の一大イベント『星見祭』だよ!」
「あっ、そうか」
「ふふ♡ 誰と星見をするか、ちゃんと決めた?」
 すると、わたしの隣の席で、静かに本を読んでいた燐くんが、ぶっきらぼうに聞いてきた。
「……なにそれ?」
「宝井中の文化祭みたいなものだよー。昔からの伝統でね、『ふたりっきりで星見をしたペアには、星からの祝福がある』っていわれてるんだ」
「星ってなに? どんな星?」
 怒ったようにいう燐くんに、柚希は戸惑ってしまう。
 わたしはあわてて、フォローをいれた。
「り、燐くん! ただの学校の伝統だから、深い意味はないと思うよ……」
「ふうん。陽菜がそういうなら、信じる」
 そういって、燐くんは再び、本へと視線を戻した。
 柚希が、びっくりしたようすで、こっそりといった。
「佐々波くんって、たまにへんなスイッチ入るよね~」
「そ、そう……?」
 たぶん燐くん、祝祭の星のことを気にしてるんだよね。
『アステル』にされたんだもん、当然だよ。
 燐くんはいつもわたしのことを心配したり、優しくしてくれているのに、わたしはちゃんと燐くんのことを気遣えているのかな。
 わたし、いつも突っ走ってばかりだからなあ……。
「燐くん、何読んでるの?」
「旅行エッセイ。ニュージーランドに行ったときの日記がおもしろおかしく書かれてるやつ」
「エッセイって、読んだことないかも」
「いま読んでるところは、『ニュージーランドのテカポ湖は、世界一きれいな星空が観測できることで有名』……だってさ」
「わあ~! 世界一かあ」
「気になるなら……読み終わったら貸そうか?」
「いいの?」
「うん」
 嬉しそうにうなずく、燐くん。
 世界一の星空かあ。
 想像したら、たくさんの流れ星が流れてきた。
 わたしの願い事は、昔から変わらない。
 たった、ひとつだけだ。

 ■

 その日の夜。
 なぜか――わたしは真っ暗闇の学校の廊下にて、懐中電灯を持ち、びくびくと震えていた。
「も~。なんで、こんなことに……」
 下校中、セルヴァン会長が、わたしと燐くんに、ニコニコといってきた。
『今夜、学校に忍びこもうと思うんですが、おふたりとも、ごいっしょにいかがですか?』
 わたしたちは、聞き間違いかと思ったけれど、セルヴァン会長のいうことは変わらなかった。
『宝井中学校を調査したいんです――それも、地下室にね』
 現在、真っ暗の学校でわたしたちは懐中電灯の明かりだけを頼りに、昼間よりもどこか寒々しい廊下を歩いていた。
「仕方ないでしょ。うちの学校に地下室があるなんていう人がいるんだから……」
「それって、ぼくのことですか? えっ? ふたりとも、ぼくが嘘をついてるって思ってるんですか?」
 びっくりしたように、わたしたちを交互に見るセルヴァン会長。
「ほんとうに、うちの学校に地下室なんてあるのかなあ」
 わたしがいうと、セルヴァン会長は、背負っていたリュックのなかから、一冊の本を取り出した。
 何だろうと、わたしは懐中電灯の明かりを表紙に向けた。
『宝井中学校 〇〇年 卒業文集』
 燐くんが、表紙をのぞきこんでいう。
「これ、五十年前の文集だ。よく残ってたね」
「今日、職員室に行って、借りてきたんです。ここ、読んでみてください」
 セルヴァン会長が指さしたのは、三年二組の寄せ書きコーナー。
 とある男子のコメントだ。
『キモダメシが楽しかった! まさか、うちの学校に地下室があるとは』
 ほんとうに、地下室のことが書かれてる!
 わたしと燐くんが顔を見あわせると、セルヴァン会長が、ぱらっとページをめくった。
「ここにも、同じようなコメントが書かれています」
 指さされているのは、三年四組の文化祭のときの写真。
 たくさんの荷物が置かれているところで、三人の女子がピースをしている。
『地下室で、キモダメシ! サイコーだったね!』
「この写真、職員室の前で撮ってるね」 
 わたしがいうと、燐くんが「うーん」と首を傾げた。
「職員室の前に、こんな倉庫みたいなところあった?」
 燐くんは転校したてだからか、あまりピンときていないみたい。
「職員室の近くの階段下に空きスペースがあるんだよ。そこに、潰した段ボールとか、教材のあまりとか、すぐに捨てられないものを一時的に置いてるんだって」
「そういえば、へんな空間があったような……でもなんで、こんなところで写真を?」
「この奥に、地下室へ続く階段があるんです」
 セルヴァン会長が、写真の中央を指さした。
「空間の奥を見てみてください」
 たしかに、写真のいちばん奥に薄っすらと、扉のようなものが見える。
 これが、学校の地下室へ続く扉……?
「――さて、まずは職員室に向かいましょう」
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