セカンドマリッジ ~病室で目覚めたら、夫と名乗るイケメン社長との激甘夫婦生活が始まりました~
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 ソファーの上で体育座りをし、膝に強く顔をうずめる。志歩が家に帰って来てから、かれこれ一時間以上経過しているが、未だにその状態から動けない。苦しさを押し殺すように膝をグッと抱えて、行き場のない感情をやり過ごしている。

 あんな男のことなど考えたくはないのに、何度頭の中から追い出そうとしても、すぐに俊也の姿が浮かんでしまうのだ。

 俊也とまだ楽しく過ごせていた頃の喜びと、彼に裏切られたときの痛みが、同時に襲ってくる。悟との日々に癒されて、もうすっかり俊也のことは忘れているつもりでいたのに、たった数分顔を合わせただけでこうも感情を乱される。

 今さら俊也に振り回されるなど、自分でも愚かだとわかっているのに、なぜか心が思い通りになってくれないのだ。

 気を抜くと涙が浮かんでしまいそうで、膝にうずめた顔を上げられない。決して泣くものかと全身に力を入れて堪えている。あんな男に揺さぶられて流す涙などあってはならない。

 志歩の心を動かすのは悟だけでいいのだ。悟にしか感情を動かされたくない。そうでなければ悟に申し訳が立たない。

 そんなことを思いながら、ひたすら感情を押し殺していれば、気づかぬうちに時間は随分と経っていた。
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