生徒会長はオレのモノ
「君は今日からペットだよ?」
「んああ…やめ…」
私がこんなことになってしまったのは、何故だろう?
だって、さっきまで生徒会室で仕事をしていたはずだ。
「そんな抵抗じゃやめてあげないよ。」
意地悪に笑うのは、上裸の男、悪田前男だ。
そういう私もいつのまにか上裸になっていた。いや、脱がされたのだ。
「ちょ…、いい加減に…」
そう言ってもまた唇に彼の唇が触れる。
暖かくて気持ちいい。
そう思ってしまうのは何故だろう。いやなはずなのに。
「…もっと…して。」
自然とそう口にしていた。
彼がフッと笑う。「すこしは利口になったじゃん?」
「元から利口だけど……」私が言い返すと、またキスが浴びせられる。
何も考えられない。
早く、逃げないといけないのに。こんなことしてる場合じゃないのに。
「…会長!」
大きい声と共にドアがバンッと開かれる音がし、思わず私は振り返る。
暗かった部屋に光が差しこむ。
ドアを開けて立っていたのは、生徒会の会見であり私の後輩の鈴だった。
「…ああ、鈴。」
どうにか私は言った。
熱かった体が一気に寒くなり、頭が回転する。
急いで服を巻くしあげた。
「…もうおわりか。」
耳元で囁く声がした。
私はばっと彼から離れると、急いで鈴の元へ行った。
鈴は心配そうな面持ちをしていた。「どうしたんです、会長。なんだか様子が…」
先ほどの記憶が頭をよぎる。急いでそれを消そうと頭を横にふった。
「大丈夫よ。さあ、戻りましょう。」
なるべく冷静に言うと、私は歩きだした。
「あ、会長!待ってください〜!」
あとから走る音が聞こえた。

生徒会室に戻ると、仕事を再開した。
プリントなどを見ているうち、すっかり正気を取りもどした。
「会長、お疲れじゃないですか?」
鈴が聞いた。
「ええ。鈴こそ大丈夫?」
私は鈴を見て尋ねた。
「まあ、会長!私の心配をしてくださるなんて…本当お優しいですね!」
感情こもった声で鈴が言う。
私は優しい、生徒会長として人気だった。
それはわざと演じているわけではなくて、自然とそうしていたら言われていたのだ。
「あたし、もう上がらせてもらいまーす。」
秘書の上野が言うと、次々にみんな上がっていった。
「会長、一緒帰りましょうよ。」
側にきた鈴が言う。
「ごめん…これおわったら帰るから。」
私は小さく手を上げて言う。鈴は唇を尖らせて、「真面目なんだからー。」と言っていた。
これもよく言われる言葉だ。自分でもそう思う。実際、そういう子が生徒会には多いが、私は一番真面目といわれているし、そう思う。
成績はいつもトップ。善行賞をもらったこともあり、憧れる生徒No. 1。
自分で言うのもだけど、私は人気者だ。
誰もいない部屋で、私はカタカタとキーボードを叩いていた。
もうそろそろおわりかな、と思った時、ドアがノックされた。
誰だろうと思い開けると、さっき私を襲ってきた悪田前男だった。
私はギョッとした。が、できるだけ冷静に対応した。
「何か用ですか?」
彼は表情が掴めない顔をしていた。私はまたさっきみたいなことをされるんだろうか、と身構えていた。
「これ。」
突然前男が声を発したかと思うと、私の手にペットボトルがあった。
「え…これ…」
私がキョトンとしながら言うと、彼はまたあの笑みを浮かべた。意地悪な。
私は背筋が冷たくなるのを感じた。
何…されるの?
ギュッと目を瞑ると、彼の笑い声が聞こえた。
驚いて目を開けると、もう前男は笑っていなかった。代わりに、また読み取れない表情をしていた。
「ペットにはエサをあげないとね。」
急にとんでもないことを言った。
「はい?ペット?エサ?」
私ペットなんていないけど…と心で付けたした。
ふいに頭に何かを感じた。
上には前男の手が乗っていた。大きくて、暖かった。
くしゃくしゃと撫でられると、おでこにキスをされた。
ぶわっと自分の顔が熱くなる。
「じゃあね、オレがいなくても泣くなよ?」
彼は意味のわからないことを言うと、部屋を出ていった。
「は?誰が泣くわけ!?」
自分で自分の声の大きさに驚いた。
それから、キスされたところを手鏡で見た。
何もなかった。
ほっとして、手鏡をポーチにしまった。
前男からもらったペットボトルは、水だった。
キュッとフタを開けると、ゴクゴクと飲んだ。
冷たくて…おいしかった。
フタを閉めてカバンに入れると、パソコンを閉じ、部屋の電気を消して、私も部屋を出た。

次の日は、朝早くから生徒会室に来て、仕事をやっていた。
時刻が7時を過ぎると、続々と生徒がやってきた。
「会長はえらいですねー。私なんかその時間ぐっすり寝てましたよお。」
鈴が笑いながら言う。
「あはは、ありがとう。」
私は愛想笑いで返しながら、パソコンのキーボードを打っていた。
授業が始まる時間になると、急いで仕事を切り上げ、教室に向かった。
授業での私は無双状態だった。
手を挙げれば毎回正解。そのあとはクラスメイトたちの拍手。
テスト返しでは毎回100点。この時もクラスメイトから拍手を贈られる。
あっという間に授業がおわり、私は生徒会室にいた。
続きの仕事をしていると、ドアがノックされた。
秘書の上野が出ると、前男だった。
私の鼓動が速くなる。
「あの…何か用でしょうか?」
「はい。…後藤桃花に。」
私はドキッとした。
仕事をしていた生徒たちの目線がくる。
上野が私のところに来ると、耳打ちした。
「会長、お呼びですよ。」
「ええ、わかりました。」
私はパソコンを閉じると、イスから腰を上げた。
そうして彼の元に歩みよった。
前男は相変わらず不思議な表情をしていた。
「では、参りましょう。」
上野が言うと、前男が手で押しとどめた。
「君は来なくていいよ。」
「はい……?」
上野の顔が険しくなる。
秘書は生徒会に付き添うものだ。
「…いいの、上野。」
私はゆっくりと上野の方を振り向いた。「戻っててちょうだい。」
「でも……」上野が困惑したように言う。
「これは命令よ。」
と言うと、上野は「わかりました…」と言って、部屋に戻っていった。
すると、前男がぷっと笑った。
「ふーん、命令ねえ。」
「何がおかしいのよ?」
カッとなって言うと、彼に腕を掴まれた。
「ちょ…、歩けるわよ。」
「…行こうか、しつけに。」
彼はゆっくりと振り返ると、また意地悪い笑みを浮かべた。
「ペットちゃん?」
どうやら、私が彼のいうペット、らしいーーー。
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