身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
にやにやと笑う顔が想像できるほどの、いやらしいガレスの声がする。エリシアは背筋にゾワゾワするものが這い上がるのを感じながら、香水の瓶をバッグにねじ込むと、そーっと裏口に向かった。
「無視するなよ、エリシア! 贅沢させてやるって言ってるだろっ。両親のいない没落貴族のおまえと誰が結婚するっていうんだよっ」
ガレスの声はさらに荒々しくなった。それでも返事が返ってこないとわかると、戸をガチャガチャと鳴らした。その音に紛れるように、エリシアは裏口を開く。
「チッ! 少しばかり美人だからって、お高く止まるんじゃねーよ」
ドオーンッ、という音が周囲に響き、エリシアは身をすくめた。ガレスが戸を蹴り上げたのだろう。家はミシミシと揺れ、土ぼこりが降る中、ガレスの叫び声が聞こえる。
「逃げたんじゃねぇだろうなぁ」
土を踏む足音がする。こちらに向かってくるようだ。
(まずいわっ)
エリシアはバッグを抱きしめると、一目散に走り出す。
フェルナ村の村長の息子であるガレス・オルムとの縁談が持ち上がったのは、母が亡くなった直後のことだった。
『お前はもうひとりきりだ。ならば、村のためにもガレスの嫁になれ』
葬儀の場で村長は、泣きぬれるエリシアの意思などまるで関係ないという態度で、村人の前で要求を突きつけた。村の人々はエリシアに同情の目を向けたが、誰一人として逆らえず、エリシアを助けようとするものはいなかった。
それは仕方のないことだと、エリシアもわかっていた。ガレスは粗暴で知られる男だった。村の娘にちょっかいを出しては笑い転げ、昼間から酒を飲んで村人に暴言を吐く。そんな傲慢な姿を何度も見た。ガレスを甘やかす村長も同類だ。そんな家に嫁いだら、どんなひどい扱いを受けるかは明白で、エリシアを助けようものなら、小さな村の村人は同様に痛い目を見ることになるだろう。
「無視するなよ、エリシア! 贅沢させてやるって言ってるだろっ。両親のいない没落貴族のおまえと誰が結婚するっていうんだよっ」
ガレスの声はさらに荒々しくなった。それでも返事が返ってこないとわかると、戸をガチャガチャと鳴らした。その音に紛れるように、エリシアは裏口を開く。
「チッ! 少しばかり美人だからって、お高く止まるんじゃねーよ」
ドオーンッ、という音が周囲に響き、エリシアは身をすくめた。ガレスが戸を蹴り上げたのだろう。家はミシミシと揺れ、土ぼこりが降る中、ガレスの叫び声が聞こえる。
「逃げたんじゃねぇだろうなぁ」
土を踏む足音がする。こちらに向かってくるようだ。
(まずいわっ)
エリシアはバッグを抱きしめると、一目散に走り出す。
フェルナ村の村長の息子であるガレス・オルムとの縁談が持ち上がったのは、母が亡くなった直後のことだった。
『お前はもうひとりきりだ。ならば、村のためにもガレスの嫁になれ』
葬儀の場で村長は、泣きぬれるエリシアの意思などまるで関係ないという態度で、村人の前で要求を突きつけた。村の人々はエリシアに同情の目を向けたが、誰一人として逆らえず、エリシアを助けようとするものはいなかった。
それは仕方のないことだと、エリシアもわかっていた。ガレスは粗暴で知られる男だった。村の娘にちょっかいを出しては笑い転げ、昼間から酒を飲んで村人に暴言を吐く。そんな傲慢な姿を何度も見た。ガレスを甘やかす村長も同類だ。そんな家に嫁いだら、どんなひどい扱いを受けるかは明白で、エリシアを助けようものなら、小さな村の村人は同様に痛い目を見ることになるだろう。