身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
(はやく王都に行かなきゃ)

 エリシアはますます駆け足になった。

 王都にある大聖堂の修道女になるという希望が、エリシアにはあった。その思いを描いたのは、葬儀のとき。頼れる身寄りがいないエリシアは、ガレスとの縁談から逃れるためにはそうするしかないととっさに思ったのだ。そしてそれは、ガレスから結婚を急かされるたびに確固たる思いへと変わっていった。

 生まれ故郷のフェルナ村。ここには両親とのたくさんの思い出があった。しかし、その思い出もお金に変えてしまった。ここにいる理由のすべてを、母の死とともにエリシアは失ってしまった。

 病に倒れた母は亡くなる前、エリシアに「必ず、生きて……」と言った。それはひとり残されるエリシアにとって残酷な言葉であったが、今はあの言葉を支えに生きている。

 王都にあるノアム大聖堂には、多くの修道女たちがいるという。修道女となり、献身的に仕えていれば、いつか、生きる希望が見出せるのではないか。何としてでも生きていかなければならない。そう思える今だからこそ、大聖堂での生活が唯一の救いになると信じている。

 王都へ向かう定期馬車の乗り場はもう目の前だ。後ろを振り向く余裕などない。そんな中、背後から「待てー」と叫ぶ声が聞こえてくる。

(追ってきてる……!)

 心臓が張り裂けそうになりながら、息も絶え絶えに馬車の前方へ向かう。ちょうど御者が手綱を握るところだった。

「乗せてください!」

 エリシアは必死に叫んだ。

「もういっぱいだ。次のにしてくれ」
「急ぎなんですっ!」
「……料金は?」

 御者は気だるげに尋ねる。エリシアは震える手で巾着をひっくり返し、すべてのコインをつかんで差し出す。

「これで……っ」

 御者はチラリとそれを見た後、ため息をつきながら金を受け取った。

「乗りな」

 馬車の扉を開けると同時に、怒鳴り声が響く。

「エリシアッ!」

 ガレスだ。少し離れたところから、怒りに満ちた顔がこちらを向いている。

(どうか、間に合って……!)

 エリシアは一か八か、馬車に飛び込む。身を縮めた瞬間、車輪がきしみを立てて動き出した。
< 3 / 130 >

この作品をシェア

pagetop