身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
 ルルカを遮って、エリシアはきっぱりとそう言った。

 シムアの教会には、疫病に苦しむ人たち以外を受け入れる使命を負っている。それなのに、サイモンが頼みに来たのだから、苦渋の決断だったはずだ。それほど、大聖堂は切迫した状況なのだろう。身軽なエリシアが行くことに誰も反対しなかった。それはやっぱり、今の状況で誰もが適任だと感じてくれているからだ。

「サイモン様を待たせてるから行くね」
「エリシア……待ってよ」

 部屋を出るエリシアをルルカは追いかけてきたが、教会の入り口で待つサイモンやエルダたちを見つけたら、黙ってついてきた。

「お待たせしました、司祭様」

 エリシアが頭を下げると、サイモンはゆっくりうなずく。

「では、行きましょう。馬車を待たせています」
「あの、少しだけ待ってください」

 歩き出すサイモンの背中に声をかけたエリシアは、エルダに駆け寄ると今までのお礼を言い、ルルカとマルナに「大丈夫だからね」と笑いかけ、姉と慕う修道女一人ひとりに「行ってきます」と声をかけた。

 彼女たちが涙ぐみながら、「いつでも帰っていらっしゃい」と抱きしめてくれるから、エリシアは温かい気持ちになって、みんなに手を振りながら、サイモンとともに石畳の道を歩き出した。
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